「英語話せますか?」

夕方のワンコのお散歩帰り、チャビちゃんママと一緒に寒さに身をすくめて速足で歩いている時、向こうからスーツケースを引きずりながら歩いてくる背の高い20代前半くらいと思われる男性に話しかけられました。
手にはスマホ。傍らに同年代のポニーテールの女性が同じくスーツケースを持って立っています。

「中国から来たんですが、ココ(スマホの地図を指さしながら)に行きたいのですが、分からなくて・・・」

その男性が指さす場所は、私たちがいるところからさほど離れていませんが、念のため、目的地の住所を尋ねました。
すると、住所は分からないというのです。
「え? 住所がわからない? お友達のところへ行くの?」
そう尋ねると「そうではない。〇〇ハイムへ行きたいのだ」と言うのです。
更に不思議に思って詳しく尋ねると、中国で斡旋してくれた業者が用意してくれた日本での宿泊場所が〇〇ハイムで、送られてきている簡単な地図だけが頼りとのことでした。
近隣に住む私たちが見ても分かりづらいその地図。
しかも、その地図を見る限り、彼が指し示すスマホの地図とは少し違うような気がします。

「〇〇ハイムっていってもねぇ・・・」
とチャビちゃんママに言いながら私がスマホで調べると、ありました!
中野区〇〇1丁目15番・・・・ 。私たちが今いる場所は3丁目・・・・。

「あのね、ここじゃなくて、ここから歩いて10分くらいのところ。間違えたみたいよ。」
そう説明している時、彼のスマホのバッテリー残量が残り少ないことを示すアラームが鳴りました。覗き見ると残り13%。
彼のスマホに正しい地図を入力して・・・・ と操作している間にもみるみる画面は暗くなってきます。

「あのね。〇〇ハイムは地図を見る限り、狭い路地を入った分かりづらいところだから、私、一緒に行くわ。」
遠慮する彼と彼女に、「あなたのバッテリー、もうすぐ切れちゃうでしょ。」と言って、4人と2匹で歩き始めました。

最初、私が勝手に申し出たことなので、チャビちゃんママには先に帰ってもらえるように言ったのですが、「家はたくさんいるから、1人くらい帰るの遅くても大丈夫。」と、私にお付き合いしてくれました。
どんな時にも損得勘定全く抜きで、誰にも等しく親切で優しいチャビちゃんママ。
既に日は沈み真っ暗になっていたので、ありがたいやら、心強いやらで、私は内心、とても嬉しく思いました。

スマホの案内を頼りに歩くこと約10分。
細かく入りくんだ路地の奥まった突き当たりにようやく見つけた〇〇ハイム。
これは、絶対にあの地図だけじゃあ辿りつかないわ!全くぅ、不親切な斡旋の人だわ!
と勝手に腹を立てていた私ですが、新たなる問題が発生しました。
201号室へ入るためにはお部屋の鍵が必要ですが、普通のアパートで管理人さんがいるわけでもなく、途方に暮れてしまったのです。

彼が案内のメールを見せてくれたところ、郵便受けに鍵が入っている。暗証番号は〇〇〇〇。と書いてありました。
しかし、アパートの郵便受けそのものが施錠されています。
確かに何か入っているようではありますが、部屋の鍵と言うよりも、もっと大きなもの。
すっかり困惑している彼と彼女。

ダメもとで私がポストに手を入れると、かろうじて小指に何か引っかかり、それを無理矢理引き上げると、3㎝×4mくらいの大きさの大型南京錠のようなものでした。
これじゃあ・・・・・
なす術なしかと思っていたところに、彼が言いました。
「ここへ電話してもらえますか。僕は日本語出来ないから。日本の斡旋の連絡先なんですけど。」

そこには国籍不明のニックネームと日本の携帯電話番号が書かれていました。
ここまできて彼らを見捨てて帰ることはできません。
示された電話にかけると、10回以上コールした後、繁華街にいるような騒音の向こうからしわがれた中年男性の声が聞こえてきました。
「もしもし。私、たまたま道を尋ねられて案内した者なんですけど・・・」

事情を説明し、お部屋の鍵がなくて困っている事を説明すると、その声の主はいとも簡単に郵便受けに入っているというのです。
私は少しムッとして、郵便受けを開けることはできなかったので、無理矢理手を入れたところ南京錠が見つかっただけだと抗議の声を上げました。
すると「その南京錠に暗証番号〇〇〇〇を合わせてもらったら、中にルームキーが入っていますから。」と言うではありませんか。
言われた通り番号を合わせると、カチッと音を立てて南京錠が開き、逆さに振ると、見慣れたルームキーが出てきました。
アパートの鍵穴に差し込むと開錠。
思わず4人でワオ!と喜びの声を上げてしまいました。ついでに2匹も嬉しそうに跳び跳ねました。

「何かあったらまた電話してください」と言う中年男性に、私はどうしても一言言いたくなってしまいました。
「私は通りがかりの者なので、私からご連絡することはないと思います。ただ、彼が持っている英語の案内文を見る限り、とても分かりづらかったので、とても気の毒になってお手伝いしただけです。さようなら。」

部屋に入って温まって行けというコンさん(男性の名前はコンさんという事が後でわかりました)の誘いを振り切って、チャビちゃんママと一緒にアパートを後にしました。
何度も何度も「very very thank you」を私の手を両手で握り締めて言うコンさん。
「こんなに手が冷たくなって。寒いのに本当にありがとう。上海に来た時には、必ず連絡してくださいね。」
そう言うコンさんに、私はとても申し訳なくなってしまいました。

「こんなに不親切な案内文と分かりづらい地図で。大きな荷物持ったまま日が暮れてきて、コンさん達こそ寒くて疲れて大変だったでしょう。これに懲りずに、日本滞在を楽しんでね。日本を嫌いにならないでね。」
そう伝えました。
チャビちゃんママも言いました。
「こんなことで、日本を嫌いにならないでほしいわ。」

コンさんと連絡先を交換することはなかったので、私が上海へ行ったとしても彼に案内してもらうことはないでしょう。
願うべきは、どこの国の人であれ、どんな人であれ、日本を好きになって帰ってほしい。日本人を好きになって帰ってほしい。楽しい思い出、嬉しい思い出を一つでも多く持ち帰ってほしい、ということです。

あ~。それにしても私の英語はなんと錆びついていることか・・・
purpose of your trip と何度言っても発音が悪いのか、purpose が通じず、スペルアウトして理解してもらう始末。なんともトホホな感じでした。
ITが進化し、スマホに日本語を入れれば英訳してくれるとは言え、やはり直接に目と目を見ながら言葉と言葉を交わすコミュニケーションに勝るものはないと信じています。
錆びた英語。ブラッシュアップしなければ! 帰り道にひとしきり反省した私でした。

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