心臓手術のために入院中の母。もともとがとても神経質なため個室を希望していましたが、病院のベッドはいっぱい。手術日自体を無理を言って早めてもらったため、これ以上の我儘は難しく、今回は4人部屋で過ごすこととなりました。
同室のお一人に、恐らくまだ小学校高学年くらいだと思われるとても症状が重たい患者さんがいます。
気管切開でチューブが装着されており、声はもちろん出ませんし、自由に身動きが取れないため、何かする時には看護師さんと付き添っているお母さんの2人がかりです。
夜中にも、寝返りを打つための補助や鎮痛剤の投与を行う為、部屋には常に金属音や話し声が響き、また女の子の苦しそうな喘ぐ声も聞こえます。

女の子とお母さんが病室からいなくなった時を見計らって、溜まりかねた同室の年配の女性が誰に話しかけるでもなく大きな声でひとり言を言いました。

「ああ本当に毎晩毎晩うるさい!可哀想だと思うけど、こっちもいい迷惑。眠れなくてこっちが具合悪くなる。なんで個室にしないのよ。いい迷惑だわ。本当に!」

その場に居合わせた私は、何と言葉を返して良いか戸惑い、黙ってその老婦人を見つめることしかできませんでした。

「可哀想だと思うわよ。私だって。けど、なんで私がそのとばっちり受けなきゃいけなんだって思うわけ。あなただって本当はこの病室にお母さんが当たって損したとか、そう思ってるんでしょ?!」

老婦人の私に向けられた怒りの言葉を聞いた時、もう随分と昔の話になりますが、当時の上司が私たちメンバーに向かって吐き出した言葉を思い出しました。
「障がい者受け入れ枠が会社に義務付けられてるのは知ってるけど、なんでよりによってうちの課で引き受けなきゃいけないんだよ!こっちはそれでなくても毎日大変なのに。お前らだっていい迷惑だよな?!」

恥ずかしながら、当時の私は上司の言葉に反論はありませんでした。現場の最前線の、しかも稼いでいるチームでなぜ引き受けなければいけないのか、合点がいきませんでした。
今、老婦人から突然の言葉を向けられて、私は母に言いました。
「あのね、私はこの病室でずっと過ごしているわけではないし、毎晩、ここで寝てないから、綺麗ごとに聞こえるかもしれない。けどね、
Sちゃんを見ていて、『生きる』ことの尊さ、美しさ、みたいなものを感じる。Sちゃんは息をするのも、腕を少し動かすのも、すべてが命がけで、その一瞬一瞬に命を感じる。私に『甘ったれてないで、もっと走れ!』とムチ入れてもらってるような気持ちになる。お母さんには悪いけど、Sちゃんと出会えて私は良かったと思ってる。」

老婦人の憮然とした様子。母の複雑そうな表情。
「あんたは当事者じゃないからね。けど、そう思うことができる大人になってくれて良かったわ。」母はかろうじて私にそう言ったのでした。

チームに何かハンディキャップを抱えた人が一人でもいると、確かにちょっと目にはそのチームはとても大変そうだったり負担を抱えているように傍からは見えるかもしれません。
しかし、普通にしか物事を見たり考えたりできない私たちは、彼彼女たちから学べることは山ほどあると思います。
実際に、それを実践している企業は沢山あります。
例えば一例として、「理想の会社をつくるたった7つの方法 (日本でいちばん大切にしたい会社・サーベイ編)」の中にも載っている徳島県に本社がある西精工株式会社さんが挙げられます。
要らないメンバーなどいない。みんな必ず何かの役に力になることができる。
そう心から信じることができているからこそ、支え合い、助け合い、そこから不思議な力が生まれ、大きな実りとなっているのです。

「同じ病室になったのも何かのご縁だよ。嫌だ、迷惑だと思いながら過ごすんじゃなくて、Sちゃんから学べることがきっと沢山あるはずだから、『ありがたい機会をいただいた』くらいに思えるといいんだけどね。」
私がそう言うと、母は静かに微笑みました。

人間はどんな環境からも、誰からでも学ぶことができる。
Sちゃんが力強く生きようとしている姿に直面して、改めて心からそう思うのでした。

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