もう随分前のことですが、こんなやり取りがありました。

A:クライアントさん  B:私(コーチ)

 

A:「許せないリストNo.1」の人をどうしたら忘れることができるんでしょうか?

B:もう少し、具体的に教えてもらえますか?

A:はい。以前、上司に「いい加減、学習しろよ!」と頭ごなしに言われたことがあって、その人のことなんです。言っている事に納得できなかったし、そもそもその上司は言っている事とやっている事が大きく違うのに、自分はその自覚は全くなくて俺は完璧みたいな感じで上から物を言われたので、すごく反発を感じたのです。「あなたに言われたくないんですけど。人に偉そうに言う前に、我が身を振り返ってはどうかしら?!」とホント、思いました。

B:それはまた、大変でしたね。それで、Aさんはどうしたのですか?

A:上司なので口では「わかりました」と言ったものの、それ以来、そのことがずっと心の中に引っかかったまま徐々に大きなわだかまりとなり、すると、上司の言うことやることが全て「おかしい!」と思うようになってしまい関係性もすこぶる悪くなりました。結局、その会社は辞めることになってしまいました。

B:嫌いな上司と縁が切れたのですから、Aさんにとっては良い決断だったのですね?

A:はい。ほんの少しの間だけは。でも、心の中にずっとあの時の「いい加減、学習しろよ!」の言葉が残っていて、それが時々、ふっと湧いて出てくるように思い出されるのです。

B:それはどんな時ですか?

A:う~ん・・・。どんな時と言っても、いろいろです。

B:思い出すとどんな気持ちになるのですか?

A:「あなたに言われたくないんですけど」と今でも思います。そして、上司が繰り返し起こしていた不手際を思い出します。そして、「ほら。あなたにそんなことを言う資格はないのよ」と思います。

B:それは、言われた内容に対してではなく、その人が言ったから嫌だったということでしょうか?もし、他の人が同じことを言ったとしたら、「何回も同じこと繰り返してるね。学習しないとね。」と言ったとしたら、素直に受け入れられたと思いますか?

A:・・・・・・。はい。そうだと思います。他の人だったら、あんなキツイ口調で言わないと思いますし。まあ、それを置いても、あの上司に言われたのがイヤだったんです。本当に、自分のことを棚に上げてと思うんです。

B:そうですか。でも、今はその人とはもう関係ないのですよね。なのに未だに思い出して不愉快になるというのは、余程、イヤな気持ちがしたのですね。

A:はい。もう、悔しくて悔しくて、その日は眠れなかったし、暫くは体調も悪かったと思います。

B:大変でしたね。ところで、他の人が言ったら素直に受け入れられたということですが、その上司が言った内容は、Aさんにとって、事実として受け止める必要があることですか?

A:・・・・・。はい。悔しいですけど・・・・。

B:その上司にキツイ言われ方をされたことは残念な事だったかもしれませんが、事実としては間違ってはいなかったわけですね。Aさんは、そのことにはこれまで気がついていましたか?

A:・・・・。はい。最初は受け入れられませんでした。拒否感があまりにも強くて。でも、少しずつ気がつきました。そして、悔しいけどそうかもしれないと思ったので、余計に腹が立ったというか・・・。今も不愉快になるのは、間違っている人に正論を言われたからかもしれません。でも、言われたことは間違ってはいなかったので、それについては真摯に受け止め、今、自分の中で間違いに走りそうになった時には自分で自分に優しく「学習、学習」と言い聞かせています。

B:へえ~。それはすごいですね。その効果はどうですか?

A:はい。これが結構あるんです。「学習、学習」と自分に言ってあげることで、間違えそうになってもブレーキがかかるし、「学習できてるかな?」としっかり振り返るようにもなってきました。自己評価では、かなり成果が出ているような気はします。

B:いいですねぇ。ところで、その「学習、学習」と自分に言うようになったのはいつ頃からですか?

A:その会社を辞めて半年くらい経ってからです。

B:きっかけは?

A:辞めて暫くしてもあの時の不快な気持ちが忘れられないので、「だったら見てろ!」みたいな。あなたみたいに口先だけでなく、私は言ってることも行動もイコールなことを証明して見せる、と思ったんです。まあ、そもそもの動機は不純です・・・。

B:今でもそう思っているんですか?

A:いえ、今はもう、そんなことはどうでも良くて、素直に自分が向上していくことだけを目指して「学習」を自分に言い聞かせています。

B:そうですか。すると、当時の上司は、その時点ではAさんにとってはネガティブな存在だったかもしれませんが、結果的に、その人が言った事は、Aさんにとってはそんなにマイナスなことではなかったのでしょうか?

A:う~ん・・・。そうですね。私は上司が自分のことを棚に上げて上からモノを言ったことに反発したので今でもそれは嫌です。でも、結果的には言われた内容がきっかけで随分と自分の考え方も行動も変わったと思うので、「変化のきっかけを作ってもらった」という意味では感謝することができるかもしれません。

B:あれほど嫌だと言っていた上司にも感謝ポイントが出てきましたね。

A:ホントだ。そう考えるとすごい事かも。嫌だと思う感情がいろんなことを見えなくしてしまうけど、「変わるきっかけを作ってくれた」と言うのは、ある意味、すごいポイント高いですよね。好きになることは難しくても、感謝することはできるんですね。

B:そうですね。どうしてもネガティブな感情、嫌いとか不安とか、そういうものが前面に出てしまうと、それで覆われてしまって他のことが見えなくなってしまいますよね。でも、「事実」を一つずつ「確かめる」ことによって、嫌いや不安のベールで覆われていて見えなかったものが見えてくることもあるのでしょうね。

A:それって、まさにマネジメントと同じですよね。メンバーの悪いところだけ、できていないことばかりにフォーカスするのではなく、できていること、良いところにフォーカスしてあげる。できていること、できていないことをしっかりと切り分ける。そしてその「事実」を確認した上で、前に進むという。

B:はい、その通りです。今回の場合で言うと、「上司の態度」と「言われた内容」を切り分けて考えた結果、態度は嫌だけど、内容は事実として受け入れた方が良いと考えられたのでしょうね。私たち人間は、どうしても感情に踊らされてしまいます。自分であっても感情は容易にコントロールできないんですよね。特にそれがネガティブで強ければ強いほど難しい。でも、「事実を確かめる」という「行動」は感情とは無関係にできると思うんです。そうして確かめているうちに、不思議と感情にも何かしらの変化が出てくることもあるんです。感情は直接にはコントロールできませんから、嫌いでも好きでも、それはそれでいいんです。そうではなく、大切なことは、「事実と向き合う」という「行動」を止めてしまわないということですね。

A:はい。

B:ちなみに「感謝する」というのは感情ではなく行動ですよね。だから、嫌いな相手であっても感謝することはできるんです。ところで改めて聞きますが、今、Aさんはその当時の上司に対してどんな感情を抱きますか?

A:今日、この話をするまでは、好きとか嫌いとかではなく不愉快な感じでした。悪い人ではないですし、優しいところもあるし。ただ偉そうだし、自分の言っている事とやっている事が違うギャップに気がついていないところが「なんだかな~」とは思うのですが。ですから、感情を問われると答えに迷います。ただ、感謝しなければいけないなとは、今日話していて思うようになりました。

B:分かりました。良かったです。イライラ、モヤモヤなどの不愉快ではないということですね?

A:はい。その通りです。

B:最初に言っていた「許せないリスト」はどうですか?

A:ああ。あれはもう忘れてください。感謝リストに入れてあげることにします。

B:いいですね。今、どんな気持ちですか?

A:とても穏やかです。ちょっとした考え方とモノの見方次第で、あんなに嫌だった人に感謝できるだなんて。不思議です。でも、それが事実なんですよね。他にも、感謝しなきゃいけない人を見落としている気がするので、早速これから、自分の頭の中を少し整理してみたいと思います!

 

Aさんはとても正直に話をしてくれ、また前向きに考える人だったので、良い方向へ向かうことができたように思います。

Aさんの話に出てきた上司のことがとても印象的でした。

正論を言って素直に受け入れられたり、なぜか猛反発されたり。それは言っている事実以上に、誰が言っているかと言うことがとても大きいのだと痛感しました。

メンバーの反発の多くの原因は、こちら側にあるのかもしれません。

Aさんとの話を思い出しながら「日々是三省」を強く思いました。

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