「結局、マネージャーは仕事ができるだけではダメで、人間性を磨けということでしょうか!?」

研修会場に居並ぶ40代半ばから50代前半の30人ほどの男性マネージャー達がじっと考え込む中で、参加者唯一の女性マネージャーが声を荒らげて私に質問をしました。いえ、その声は質問と言うよりも抗議と言うほうが正しいと思えるくらいの静かな怒りが満ちていました。
大手企業様でのマネージャー研修。
彼女はおそらく40代半ば。バブル崩壊後の就職難の時代に、とてつもなく高い倍率をかいくぐってこの会社に入社してきたのでしょう。
100年を超えるその会社の歴史の中でも女性管理職は数えられるほど。その女性マネージャーが、これまでどれだけ頑張ってきて今のポジションを掴み取ったのかは容易に想像がつきました。

普段はストレートに答えることのない私ですが、この時は違いました。
「はい。そういうことです。どんなにスキルがあって仕事ができても、それだけではメンバーはついてきません。それは上司の性別に関係なく言えることですが、女性が上司の場合は残念ながら特にそうだと思います。非常に能力の高いエリート集団なら話は別かもしれませんが、一般的な日本の職場においては、人間性が欠如しているマネージャーのもとではメンバーは育たないと私は思います。実際、私にそれが全く足りなかった頃は、伸びたメンバーよりも、こぼれていったメンバーの方が多かった。これは私が自ら体験済み、実証済みの明白な事実ですし、私以外の人でも同様です。短期的結果を出すことはできても、メンバーがリーダーを超えるような成長を遂げて結果を出し続けることができるようになるには、リーダーの人となりが大きく影響すると私は思います。」

それまでのファシリテートとは打って変わっての私の断固言い切るその勢いに呑まれてしまったのか、それとも別の理由からなのか、女性マネージャーはうつむいて黙り込んでしまいました。よく見ると、目には涙が浮かんでおり、それを必死で覆い隠そうと、汗を拭く素振りで顔にタオルハンカチを当てていました。
他の男性マネージャー達も、顔を上げている人は半分もおらず、大方がうつむいてしまっています。

何となく頭の片隅では分かっていても認めたくない事実。
自分達はこんなに頑張ってきた。スキルを磨き、経験と実績を積み重ね、超一流企業での今のポジションを掴み取った。
若い頃、「成果を上げろ」「スキルを磨け」と先輩や上司からお尻を叩かれることはあっても、誰も「人間性を磨け」だなんて言わなかった。
だいたい、自分たちの上司だって、嫌な人もいた。なんでこの人が?という人もいた。
それが、今、やっと自分たちの番になったというのに、「スキルや経験、資格や実績だけでは片手落ち」と言われるだなんて。

パンドラの箱を開けてしまい、見たくなかったものを見てしまったかのような恨めしそうな表情で、皆、私を見つめました。

「普段、私はここまではっきりとは言いません。しかし、今日は敢えて皆さんに、『人間性はマスト!』と言わせていただきます。何故なら、皆さんは日本を牽引する一流企業の、その中でもここまで上り詰めてきた、世間で言うところの言わば、エリート集団です。能力も経験も実績も言わずもがなでしょう。しかし、皆さんが率いるメンバーは皆さんと同じではない。皆さんが日頃取引する関係先も皆さんと同じではない。スキルも足りない、経験も足りない、実績も足りない。もともと持ち合わせているベースの能力も恐らく違う。そういう人たちが圧倒的に多いです。そういうメンバーや関係先の方々を率いて更により大きな成果を出していくためには、そういう方々が皆さんの大ファンになってくれなければ難しいと私は思います。
芸能人の人たちはファンを本当に大切にしますよね。プロ野球チームやJリーグでも、ファンを大切にしている球団は経営状態も良いし何より強くなっている。ファンがどれだけありがたい存在かを知っているし、ファンが自分たちを強くしてくれることを知っているからだと思います。
皆さんは、自分のチームのメンバーが、自分のファンだと思いますか?関係先の方々はどうですか?
ファンとは本当にありがたい存在ですよね。いつも応援してくれる。裏切らない。成長の糧となってくれる。
ファンが多いチームも芸能人は、やはり技術や実績だけではないですよね。そこに心があると思います。
メンバーや関係先の人たちを、一人残らず皆さんのファンになってもらうべく、それも強力な根強いファンになってもらうべく、皆さんの人としての魅力を発揮してみませんか。
皆さんは、『実るほど頭が下がる稲穂かな』でなくてはいけないのです。」

鬼の形相で私に食って掛かった女性マネージャーが、大粒の涙がこぼれるのを必死でこらえながら言ってくれました。
「これまでとにかく『戦って勝つ』『とにかく勝つ』とそればかり考えてやってきました。自分が嫌なヤツだと思うことも何度もありましたが、『勝つ』ためには仕方ないと自分で自分に言い訳していました。『勝つ』ものが偉い。『勝つ』ことが全て。私の事を悪く言う人たちは、弱者の負け惜しみだと。自分のファンをつくるだなんて、考えたこともありませんでした。敵はいっぱいいると思います。メンバーの中にも敵はいるかもしれません。それでも、『敵を打ち負かして勝てばいい』と考えていました。けど、苦しいです。本当はすごくしんどいです。
ファンが一人もいなかったら、どんなに声を荒らげてもチームは前向きには動かないし、やりたいことができるはずもなく、ますますイライラは募るばかり。本当は分かっていたんです。今のままではダメだって。第一、私自身が今の自分のファンには到底なれっこないほどに好きではありません。
『スキルだけではダメ』とピシャっと言われて、正直、きつかったけど、良かったと思います。ぐずぐずしていないで、変わる方向へ変われと背中を押された気がしました。ありがとうございました。」

女性マネージャーに続いて、男性マネージャーが続きました。
「結局、マネージャーだろうと、経営者だろうと、政治家だろうと、人を動かすのは人なんだから、その『人』がお粗末だとダメなんだよな。スキルとか経験とかはメッキだもんな。ただの飾り。高級時計とかネックレスや指輪みたいな高級宝飾品みたいなもの。いくらでも上塗りできる。でも、その根本、中味がすっからかんだと、話にならないんだよな。僕も、ハッキリ言ってもらって良かったです。ありがとうございました。」

完璧な人などこの世にはいないと思います。
しかし、マネージャーとして、リーダーとして、不完全度が高かった私(敢えて過去形)は本当に本当に苦労したので、人としての魅力の欠如はマネジメントの致命的欠陥だと自信を持って言うことができます。
普段はここまではっきりという事は致しません。何故なら、参加者の一人一人に自分で考え、自分で答えを導き出してほしいからです。
しかし、今回は違いました。
なぜ? と聞かれると理由を明白に説明することは難しく思います。
「そうした方がいいと感じたから。経験による直感」としか言いようがありません。

ピシャリと言い放った言葉が参加者の心に届いて良かったと思っています。
いつもはもっと、優しいですけどね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です