高齢者ドライバーの運転事故が後を絶ちません。
私の父も多分に漏れず、その危なっかしい運転に周囲はハラハラしていたのですが本人は全く知らん顔。しかし、ちょうど1年前、昨年1月に父はそれまで乗っていた車を処分し、運転免許証を返上しました。

もう何年も前から、父の運転技術は明らかに衰えが見られました。
自宅の車庫入れに苦労する。
ショッピングモールの広い駐車場スペースにもまっすぐに停めるのが難しい。
2車線以上の道路を走る時、どちらか片側の真ん中を走ることができず、常に車線をまたいでしまう。
スピード感が明らかに鈍っている。
ブレーキを踏むのが遅く、急ブレーキが多い。

母が免許返上を父に訴えると、自らの衰えを認めたくない父は烈火のごとく怒り出します。
普段、離れて暮らしている私は、帰省のたびに衰えていく父の運転に、どう父に切り出すと良いかをずっと考えていました。

人の気持ちや行動を無理矢理には変えることはできない。
大切にしているモノ・コトやプライドを傷つけられると人は頑なになって心を閉ざしてしまう。

帰省の度に、敢えて父が運転する車の助手席に乗り、事実だけを装飾なしに伝えることにしました。

車線超えてるよ。
ウインカー出しっぱなしだよ。
30kmで走ってるよ。後ろの車つっかえてるよ。(制限速度60km/hの道路で)
ここの制限速度30km/hだよ。(60km/h出ている。)
もうちょっとまっすぐ駐車しないと、隣の車、運転席のドア開けづらいかもよ。

同乗していてコワイとかハラハラするとかは一切言わず、ひたすら事実だけをできるだけ柔らかい口調で伝えました。

ある時、実家の車庫入れにとても苦労していたので、「代ろうか?」とさりげなく声をかけると、「うん。やって・・・」と一言、寂しげに父は言いました。

「運転、下手になってしもうて・・・。昔はこんなことなかったのに・・・。」
しょんぼりと落ち込む父。
「お家の車庫ならいくらぶつけてもええけど、お父さんがケガしたら困るわ。万が一、事故起こして他人様に迷惑かけたとして、お金で解決するんだったらええけど、お父さんも大ケガしたり、事故のせいで気持ちが滅入ってしもて、それが原因で病気になってしもたら、本当に哀しいわ。」

その日の夕食時、それまで黙っていた父が重い口を開きました。
「事故、起こすかもしれんねぇ。」

一瞬、なんと返事するか迷いました。
「そうだねぇ」と言うと、そこから話を進められるかも。
しかし、私はこう言いました。
「なんで、そう思うん?」

「真っ直ぐ走りよるつもりでも車線踏んどるんし、家の車庫入れも何回も切り返しせな入れれんし。事故起こしたら、あんたらに迷惑かけるけんねぇ。」

「事故起こして一番困るのは、お父さんがケガしたり病気になったり、お父さんが傷つくことよ。迷惑言うたら、それ以上の迷惑ないわ。それでも、運転できんようなったら不便になるねぇ。」

「ほうじゃねぇ。ほやけど、あんたがビービー泣くのも辛いけんね。そろそろ運転止める年なんかもしれんね。悲しいけどね。」

そうして父は自分から運転することを極力控えるようになり、本当にどうしても必要な時しかハンドルを握ることがなくなり、車の処分も考え始めた矢先に脳梗塞の軽い症状が現れ、結果的にはそれがダメ押しとなり返上となったのでした。

年老いてできないコトがたくさん出てくる。
なかなかそれを認めたくない。
本当は分かっているけど、受け入れたくない。
何とかして「できる」ことを減らしたくない。
かろうじて持ち続けているプライドを保ちたい。

父のプライドを決して傷つけないことを第一としました。
たまたまかもしれないし、人それぞれだと思います。

しかし、① 事実をありのままに伝え ① その事実に対する私の気持ちを伝え(善悪や良い悪いの判断ではなく、あくまでも私の「気持ち」です」、父の反応を待ちました。
結果的に、遠回りなようで父が自らの決断で最善と思える決断をしてくれました。

人の気持ちや行動を無理矢理変えることはできない。
ただ、良い影響を与えることはできる。

この考え方を知っていて本当に良かった。そして、良い影響を与えるためにどんな関わり方をすれば良いのか、そのHow toを知っていてよかった。
心からそう思うのでした。

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