社会人2年目の春、大きなツアーの添乗チーフを任されました。
400人近いお客様を、私を含めて10人の添乗員がお世話させていただくというものです。

「お前以外は全員がグループ会社の添乗員だけど、優秀な人材ばかり集めておいたから大丈夫だろう。お前だったらできるはず。しっかりとな!」
マネージャーは私をそう言って送り出してくれました。

ところが・・・・
2泊3日の旅行期間中、添乗員は1対9になってしまい・・・
つまり、誰も私の言うことには耳を貸してくれない。グループ会社の添乗員達は皆一斉に、私を無視するのです。
その不協和音ぶりはバスのドライバーさんやホテルのスタッフさんが気づくほどですから、お客様にも伝わっていたかもしれません。

私は泣き出したいのを必死にこらえて9人の年上男性達に指示命令を出します。
「チーフの指示に従ってください。これは私だけでなく、本体(親会社)からの命令です!」
しかし、9人のリーダー格のKさんは完全に私を無視。
お客様からしてみても、9人はまとまっているのですから、一番若い私だけがアタフタしてまごついているように見えたことでしょう。

ツアー終了後、いかにひどい9人だったか、私はどれほど大変だったかを私のメンターの先輩に訴えました。
「Kは仕事はできるんだけど、確かに生意気なんだよな!グループ会社の管理課長にクレームしておいてやる。あいつは二度とアサインしないようにしないといけないな。」
先輩は私を慰めるようにそう言ってくれました。

少し救われたような気持ちになっていたところに、マネージャーから呼ばれました。
「尾藤、ちょっと・・・。」
マネージャーがグループ会社の管理課長に電話をしていたのを知っていたので、「ちゃんと言っておいたぞ!」と言ってもらえるものだと勝手に思い込み、嬉々として呼ばれた部屋へ行きました。

「管理課長には事実ベースの報告をしていおいた。先方も申し訳なかったと謝っていた。」

「ほ~らね、やったね。」
心の中でほくそ笑んだ私に対して、マネージャーは続けました。

「ところで、Kくんたち9人は、優秀な添乗員だとお客様からも評判が高く、今回のようなことは初めてらしい。管理課長も驚いていたんだけど、K達がこんな暴挙とも言える行動をしたのはどうしてだろうと俺も考えていたんだけど。」

「そんなこと、私はわかりません!」
少しムッとして答えた私に対してマネージャーは続けました。

「お前、すっごい頑張り屋だから、頑張りすぎたんじゃないのか? 相手は全員年上の男性。添乗員としての経験も知識も向こうの方が圧倒的にある。お前が助けてもらえるようにそういうメンバーをアサインしたんだけど、お前、あいつらに助けてもらうなんて気、さらさらなかったんじゃないか?張り切りすぎたんだろう?」

マネージャーの言葉を聞いて、おそらく私はとんでもなく間抜けな顔をしていたのではないかと思います。
「助けてもらう???」
鼻っからそんな考えは頭にありませんでした。

親会社の正社員なんだからしっかりしなくっちゃ!
全員年上の男性だけど、バカにされないようにがんばらなくっちゃ!
チーフは私なんだから、彼らが私の言うことを聞くのは当たり前。彼らが従うように毅然としなくっちゃ!

おそらく、一番最初の顔合わせの時点から、私は思いっきり上から目線で彼らにモノを言い、「親会社なんだから」「チーフは私なんだから」と、ただ肩書やポジションだけで彼らを動かそうとしていただと思います。

「尾藤、お前はこれからもいろんなやつらと仕事をしていく。年上だったり、グループ会社だったり、同業者の横断的プロジェクトだったり。お前がチーフを切る機会はこれからもたくさんあるだろう。けどな、チーフであろうとも一人じゃ何にもできない。みんなが動いてくれなかったら、ただの名ばかりチームに過ぎない。チームの仲間がどんなやつらだろうと、仲間に対するリスペクトがないと、そいつらも動いてくれないぞ。今回、K君たちは始末書を書いたらしい。そこに、お前に対する批判や非難めいたことは誰も、一言も書いてないと管理課長は言っていた。俺は思うんだ。暴れ馬を乗りこなすのもまたリーダーの手腕。力やポジションでねじ伏せるんじゃなくて、相手に対する愛情や思いやり、リスペクトが人を、暴れ馬をも動かすんだと俺は思うけどな。」

優しく諭してくれたマネージャーに、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになり、ぐしょぐしょに泣きじゃくりながら謝りました。
「申し訳ありませんでした。必死でつっばりました。バカにされないようにと思って・・・。グループ会社のくせにと見下ろした考えもありました。本当に申し訳ありませんでした。」

人を力で無理やりに動かそうとしても、反発されればそれでおしまい。
肩書やポジションで相手をねじ伏せようとしても、それは無理なのです。
グループ会社のメンバー全員にそっぽを向かれ、マネージャーに諭されて初めて気がついた、人を動かす、いえ、人に動いてもらうのに大切なコト。

あの時は本当に辛く凹みましたが、今となっては貴重で得難い経験をしたと思っています。

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