「あんなに年度末までのできる数字を確認したのに、今になってできないって言うんですよ!」

憤懣やるかたないといった様子で私に不満をぶつけるIマネージャー。
昨年末と今年2月初めにメンバーに年度末までの営業数字見込みを細かく確認し、その上で課の業績見込みを部長に提出したにも関わらず、今になってメンバーがその数字はできないと言っていることに腹を立てているのでした。

「少しじゃないんですよ!大ブレなんです。これじゃあ、僕が嘘の報告したのと同じですよ。ありえない!!!」
顔を真っ赤にして怒るIマネージャー。

深呼吸を何度かして落ち着いてもらってから、私は自身の苦ーい思い出についてIさんに話をしました。

「あのね、私も30代初めの頃、申告数値を盛って言ってしまって、課長に迷惑かけたことあるよ。」

「えっ!? 尾藤さんがそんなことしたんですか?」

「うん。申告している時に、『盛ってる』という自覚はちゃんとあった。もちろん課長を困らせようとか微塵も思っていないよ。何とかしようと思ってたよ。」

「けど、なんとかならなかったんですよね。それ、まずいんじゃないですか?!」

「そう。結果的に課長は物凄い怒ってた。年度末を迎える前に2月1日付で転勤になったんだけど、3月になってから転勤先にまで電話かかってきて、『あの数字はどうなったんだ』とか『どうしてくれるんだ』とか、すごく言われた。『申し訳ありません。できませんでした。』と言うしかなかったけどね。」

「どうしてそんな、盛ったりしたんですか?」

「うん。まあ、言い訳になっちゃうんだけどね。一つは、『私が何とかしなきゃ』という思いがあったのは事実。課の全体数字が良くなかったからね。もう一つは、課長にそのつもりはなかったと思うんだけど、『詰められてる感』が私にも他のメンバーにもすごくあって、それから逃げたかった。『お前らがちゃんとしないと、俺は大変なんだよ』みたいな。後から大変なことになると思いながらも、その悪い雰囲気と言うか、重たい雰囲気と言うか、なんとも言えない暗く淀んだ状態から脱したかったんだよね。課長のピリピリがなくなればいいと思ってたのかな。」

「そりゃあ、数字いってないんだったら、チーム暗いし課長だってピリピリするんじゃないんですか。」

「まあね。課長の立場になればそうだよね。けどメンバーの立場としては、毎年、年度末の見込み報告の頃になると課長がピリピリしていて、それが私たちに伝染してきて、すごい嫌だったんだよね。『あとどれくらい積める?』と聞かれると、『積める』じゃなくて『詰められてる』感じがしたの。もちろん、課長はそんなつもりじゃなかっただろうけど、私たちはそう感じたんだよね。」

「僕のせいかもしれないということですか?」

「そうは言っていないよ。けど、メンバー達の心の内にはそれぞれの『思い』があって、もしかしたら本人も意識していないところで何かが影響している可能性はあるかもしれないと思うんだよね。誰だって頑張りたい、良い結果を出したいと思っているんじゃないかなぁ。Iさんを困らせてやろうと思っている人がいるなら話は別だけどね。」

Iさんは暫く考え込んでいたのですが、やがて、ポツリとつぶやきました。
「詰めてたのかもしれないです。僕も・・・・」

「マネージャーだって必死だからね。」
そう言った私に、Iさんは涙目で頷きました。

「Iさんだけが悪いんじゃない。けど、数字だけを追うんじゃなくて、数字だけを聞くんじゃなくて、メンバーの気持ちにももう少し寄り添えたら、きっと何か違う形が生まれるかもしれないよ。」

Iさんはオフィスに戻った後、すぐにチームミーティングを開き、メンバーの気持ちには一切おかいまいなしに数字にしか関心を向けなかった自分のスタンスを皆に詫びたそうです。
黙って頷く人もいれば、Iさんの言葉を聞いてうっすら涙ぐむ人もいたのだとか。
きっとIさんの気持ちがメンバーの皆さんにも届いたのではないでしょうか。

やらなければならないことに追われる毎日。
義務と責任とでいっぱいいっぱいになる時もあるでしょう。
しかし、取り組むのは機械ではなく人間です。
自分に気持ちがあるように相手にも気持ちがあるのです。
ほんの少しそこに目を向けただけで、互いの信頼関係もチームの雰囲気も、そして生み出される結果も変わってくるのではないでしょうか。

あなたが自身の気持ちに関心を向けられて最も嬉しかったのは、どんな時に誰に向けられた時ですか?
その後、あなた自身の気持ちや行動に何か変化はありましたか?
あなたはメンバーの気持ちにどれくらい関心を向けることができていますか?

2019年03月07日

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