地元では大手の仏具屋さんに勤めるMさんは、店長と先輩社員からいつも指摘されることについて悩んでいました。
「お客様と無駄な話をしないで、効率的にもっと短い時間で多くを売るように。」
店長と先輩社員は、売上アップのためにはMさんがお客様と交わす雑談がどうにも無駄に思え、事あるごとに注意をしているようです。

Mさんが実際に現場でどれくらいお客様と話をしているのか、私にはわかりません。
しかしMさんは実によくお客様の事を知っているのです。

先日いらしたA様はお友達のお母さまが1年前に亡くなられたことを最近になって知り、お悔やみのためにお線香をお送りしたいとお店に訪れ、A様が子供の頃、そのお母さまにかけてもらった言葉やご馳走になったお菓子のことなどをMさんに懐かしそうにお話なされ、そのお母さまの事を想像しながら一緒にお線香を選び、ご友人宅へ宅配で送った。

ある時、原付バイクで元気にいらした高齢の男性は奥様の13回忌ということで香炉など新調したい仏具を求めにいらしたが、亡くなられた奥様との旅の思い出や馴れ初めまで伺い、すっかり仲良くなったところでその男性が92歳だと知り、そのお元気さと前向きさにとても驚いた。

「仏具を売る」ということだけを考えた時、Mさんがお客様と交わすこのような会話は無駄に感じるかもしれません。
しかしどちらのお客様もMさんとは初対面であるにもかかわらず、こんなにも心を開き色々なことをお話なさっている。
これはただの無駄話でなく、「意味ある無駄話」だからこそ、ここまでお客様がお話しなさっているのではと私は思います。

Mさんが仕事として求められていることは、「仏具屋の店員として仏具を売り、店舗の売上を上げる」ことです。
しかしそれはあくまでも結果です。
売り上げは結果であり、そこに至るまでにはもっと大切なことがあるのです。
仏具屋さんに足を運ぶ人の目的は仏具を買うことかもしれませんが、単純に品物を求めるだけならどの店でも良いし、ネットショップだっていいはずです。
しかしある特定の店を選んでわざわざそこにやって来るのには理由があるはずです。
亡くなられた人との大切な思い出や切ない思い、まだ癒しきれない痛みや苦しみなど、色々なものを抱えて店にやってくる。
店はそれらの思いを可能な範囲で共有し、寄り添い、心を寄せる。

お客様の多くがMさんとの会話をまるで求めるかのようにやってきて、ほんの少しのお喋りの後、元気になって帰っていくのは、Mさんが単に商品を売っているだけでなく、そこに彼女の思いやりや優しさ、温かさなどの目に見えない付加価値をお届けしているからに他ありません。

「売り上げを上げることはもちろん大切だけど、それは『結果』であって、そのためには仏具屋さんとしての『スタンス』が必要だと私は思うけど、Mさんはどう思う?」

私がそう質問するとMさんは少し考えてから言いました。
「会社に『心のふれあいを大切にする』というテーマがあります。店長や先輩の事を不満に思うだけでなく、店舗のみんなでそのことについて話し合ってみます。
お客様と社員、業者さんと社員、社員と社員、それぞれに心のふれあいを大切にし、感謝の気持ちを忘れず、その結果が売り上げにつながる。
それは具体的にはどういう行動なのか、どういう考えのもとに普段行動すると良いのか、もっともっと店でみんなと話し合ってみます。」

売上増を目指すのではなく、心のふれあいの充実を目指す。
モノを売るのではなくコトを売る。
ICTとAIの進化・発達により、ますますこの考え方は大切になるでしょう。

Mさんの店舗が心のふれあいで満ち溢れた豊かで温かな、まるで春の陽だまりのような店になるのが目に見えるようです。
きっと、店長、先輩社員と前向きに話ができることと思います。

あなたの仕事はお客様に何を提供していますか?
そのための具体的な行動、基本的考え方(基準)は何ですか?

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