昨日のブログで創業者の思いについて書いたところ、こんなご相談をいただきました。
「創業者の思いとか、ホームページには立派なこと書いてありますが、実態は全然違います。自分の会社を全く誇れません・・・・」

そう語るのは創業25周年ほどのオーナー企業に勤める総務部マネージャーのFさんです。
Fさんが勤める会社は創業者である社長と、社長と二人三脚で会社を盛り上げてきた専務が今も現役で舵取りをされている社員数60人ほどのサービス業を展開している会社です。

「人に優しく」と謳っていますが社員を疑ってかかって基本は性悪説です。
常時、採用募集をしていますが、1日で辞める人もいますし、2-3か月で辞める人が普通です。
うつやメンタルを発症した人は両手では足りません。
専務の怒鳴り声が聞こえない日は1日だってありません。
労基署から度々注意が入っているし、別件で裁判にもなりそうな感じで、資本金だって減資しないとやっていけないくらい経営難なのに、社長と専務の報酬は上がっているんです。

次々と出てくるFさんからの会社のシークレット話。
それが事実か否かは別として、私は素朴の疑問をFさんにぶつけました。

「そんなに嫌で嫌で仕方ないのに、どうしてFさんは今の会社で5年以上も働いていられるの?」

その会社に転職して既に5年が経つFさん。
転職初日に「失敗した・・・」と後悔したそうですが、既に40歳になっており、今更また転職活動をしても特段資格も何もない自分に新たな職場を探せるわけがないと諦めてしまったと言うのです。

「じゃあ、5年以上もの間、仕事は苦痛でしかないのかなぁ」
私がそう尋ねると、Fさんはこれまでずっと溜まっていたものが堰を切って一気に溢れ出したかのようで、子供のように泣きじゃくってしまいました。

「辞めたら?」
私はFさんに言いました。

「私が初めて転職したのは42歳の時だった。なんの資格もなかった。ただ、営業を20年近くやってきたという、それだけ。起業したのは50歳の時。年齢なんか関係ないと思う。
もし、本当に今の会社がFさんの言う通りで、そこからは何も得るものが無く、将来のために今、そこで何かを身に着けたり磨いたりすることも全くできず、ただ苦痛でしかないんだったら、そんな会社辞めた方が良いと思う。
何にも資格がないって、仕事は資格でするものじゃないよね。総務マネージャーとして、そんな劣悪かもしれない環境の中でも少しでも社員の皆さんが気持ちよく働けるようにと細かい配慮をしたり、メンタル発症した人への対応や転職者の方への心配りをしたり、Fさんに感謝している人、退職した後もFさんにコンタクトしてくれる人はたくさんいるんだよね。それはもう、立派なFさんのスキルであり、人柄がなせる業であり、それを堂々と自分の売り物にすればいいんじゃないかなぁ。
何度も言うけど、仕事は資格でするものじゃないし、スキルは後付け。一番大切なのは『思い』だと思う。
Fさんには『思い』がある。まだ40代半ば。総務のスペシャリストとして、いくらでもFさんを必要としてくれる会社はあると思うけど。」

私の話を泣きながら聞いていたFさんですが、彼女の口から意外な言葉が聞こえてきました。
「辛いばかりの5年間でしたが、確かにここで身に着けたこと、学んだことはたくさんあります。『人のふり見て我が振り直せ』的なこともありましたし、何とかしようと必死で自分から労基法とかメンタル対応とか勉強したりもしました。それは他社でぬるま湯だったらなかったかもしれません。」

「会社理念の『人に優しく』をFさんはしっかりと実践していたんだね。」

私の言葉にFさんはハッと気づいたように続けました。
「社長と専務は言っていることとやっていることが違うと、それは間違いなくそうなんですけど、私たちはそればっかりに囚われて、『人に優しく』を自分たちがどう実践するかという考えに全く至っていませんでした。社長たちがしてないから、自分たちがされていないからという不満でいっぱいになっていて。確かに今の会社への転職動機は、あの理念に賛同したんです。。。」

「けど、ひどい会社なんでしょ?訴えられるくらいに。人が定着しなくて労基署からも再三指導が入っているんでしょ?辞めちゃえば。もったいないよ、Fさんが。」

暫く考え込んでいたFさんですが、泣きはらした目で、しかし確かな口調で言ったのです。
「辞めるのはいつだってできます。けど、まだ私ができることがあるかもしれない。
私は総務しかできない、縁の下の力持ち的役割しかできません。でも、まだやっていないこともあります。
専務の目が怖くて、自分から何かを提案するなんてできませんでした。けど、自分が『人に優しく』を実践する。社長や専務がするのを期待するのではなく、自分がどうかと考えた時、まだ中途半端ですから、それをしっかりとやり切って、その後でもう一度転職するかどうかを考えようと思います。
確かに今、会社を好きかと聞かれたら『はい』とは言えないですし、全く誇りにも思えません。毎日が苦痛です。
けれども掲げられている理念には賛同しているし素晴らしいと思っています。誰がどうではなく、自分がそれを実践してみることだけに意識を向けようと思います。」

Fさんの非常に前向きで自律的な考え方に、私は感嘆してしまいました。

「そうだね。人がどうかではなく、自分がどうか、だものね。けど、やはり環境は大きくものを言うし、オーナー企業だからオーナーの鶴の一声でどうにでもなる。40代半ばだなんて全然若いよ。人生100年時代、定年は70歳を超えようかという時代なんだから、自分を大切にね。」
私がFさんに掛けられる言葉はこれで全てでした。

今回はFさんから私の方が勉強させてもらいました。
人がどうかではなく、自分がどうか。
劣悪な環境下に置かれた時ほど、その自律性が問われます。
本当に素晴らしいFさん。
彼女のこれからに心からのエールを送ります。

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