「転職したこと、後悔しているているんです・・・」
重苦しい表情でそう切り出したAさんは、高い知識とスキルを持つ30代後半の優秀な技術者です。
今の会社に来てちょうど1年が過ぎようとしているのですが、この頃では日々、後悔の念が押し寄せてきて、もう一度転職しなおそうか、このままでは自分はストレスでおかしくなってしまうんではないかと、悶々とした日々を送っているのだそうです。

「何のために今の会社に転職したの?」
私の質問に対して、Fさんの答えは明快でした。
「もっと自分を高めたかったから。切磋琢磨してもっと自分のスキルを高めたかったからです。もちろん待遇面ではアップしているし、そこに不満はありません。けど・・・」

お金じゃないんだ! というFさん。
私も同様の価値観を持っているため、Fさんの苦しみがわかる気がしました。

現状、Fさんが所属する部署内において、Fさんが望むような「切磋琢磨」をすることは難しいかもしれません。
知識においてもスキルにおいてもFさんが一番で、モチベーションについても、他のメンバーはどちらかと言うとダウン傾向。
とにかくFさんが群を抜いているので、Fさんよりもデキる人を求めるのは現状では無理。
そういう環境のため、Fさんが望む切磋琢磨は現環境下では厳しいのです。

「知識やスキルって、チーム内でないと高められないの?切磋琢磨って、チームの外では難しい?」
私はFさんの専門分野がよくわからないので素朴な疑問を投げかけました。
チーム内で無理なら他ではどうかと思ったまでです。

「他部署の人なのか、他者の人なのか、業界内なのか、よくわからないけど、チーム内で難しかったら他にその環境を求めるのは難しい?
自分を高めるって、それは知識やスキル面だけ? 高めるって、リーダーとしてとか、マネージャーとしてとか、人としてとか、いろいろな面であると思うんだけど、Fさんが言うのはどれのこと?」

私の質問に、ハトが豆鉄砲を食らったような表情をしているFさん。
口をポカンとあけたまましばらく考えていました。

「そんな風に考えたことないんで・・・」

「はあ・・・。そういう見方もあるんですね。目からウロコです。」

Fさんは既にマネージャーになってもよいだけの十分な知識とスキルを持ち合わせています。
もちろんスペシャリストとして更に上を目指すのもアリでしょうが、別の点から上を目指すのもアリだと思ったまでです。
どちらを選択するのか、どちらを目指すのかはFさん次第です。

「僕がマネージャーですか?」

「だって、それだけの素養はもう、十分なんじゃないの? マネージャーに負けないだけのモノは持っているって自信あるんでしょう?」

「ええ、まあ、技術では負けないと思います。」

「だったらさあ、どこへ行ってもスキル・技術面でFさんより上の人って、そうそう簡単には出会わないんじゃないの? それよりも、もっと別の面で自分を高めることに目を向けてみて、そこを高められたら、もっとFさん自身の厚みというか、技術者としてだけでなく、人としての厚みが増すように思うんだけど、Fさんはどう思う?」

ずっと考え込んでいるFさん。

「これまでそんな事考えたことなかったんで・・・。少し、時間をもらってもいいですか。」

そしてFさんとの話は終わりました。

今、Fさんの悩みはFさん自身の力ではどうしようもない悩みです。
つまり、Fさんがどんなに悩んでも苦しんでも、Fさんが自分で直接解決・コントロールできることではありません。
だって、Fさんより知識やスキルが秀でた人と同じチームで高め合いたいという彼の願いは、現状、物理的環境が整っていないのですから、その環境をFさんが自分で整えるということは、組織の論理としてあり得ることではありません。
ならば彼ができることは、Fさん自身のモノの見方、捉え方を変えてみる事。
それが、チーム外にその要素を求めてみる、高める対象を知識やスキル意外に求めてみる、ということです。

果たしてFさんがどんな結論をだすのかはまだ分かりません。
しかし、たった一つ言えること。
それは、自分で直接コントロールできないことはいくら悩んでも、何の進展も解決も成し得ないこと。
物事を前に進めたいのであれば、自分で直接コントロールできる自分自身のモノの見方や考え方を変えてみて、行動をそれらに合わせて変えてみることです。

再びFさんが転職するのも、今の職場にとどまって別の観点から頑張ってみるのも、どちらの選択もFさん次第。
大切なことは、自分の人生のハンドルは自分でしっかりと握るということ。
頑張れ! Fさん。 応援しています。

2019年07月13日

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