社会人3年目の春、大阪花の博覧会が開催され、私の所属チームでは大手金融機関様から2000人の2泊3日のバスツアーが年度当初の大仕事として頂いていました。400人ずつの全5班。1班をバス1台につき40人×10台で編成し、花博見学、京都&有馬温泉が宿泊地です。バス1台ごとに添乗員がつくため、1班につき10名の添乗員となります。リーダーは京都で全体の司令塔、私は3班目のチーフ添乗員を命ぜられました。入社3年目で10名の添乗員のチーフを仰せつかったのです。他班のチーフは管理職や入社15年目超の方たちでしたし、荷が重すぎのではと課長は反対のようでしたが、リーダーが私に経験させたいと推してくださったのでした。

 

当時は社員添乗がまだまだ主流だった中で、私の班は私以外の9名がグループの添乗員派遣会社からの添乗員。全員が私より年上の男性でした。おまけに超繁忙期ということもあり、10台のバスを同じバス会社で統一することができず3社に分かれてしまいました。

リーダーからは、添乗員、バスの乗務員さんとのコミュニケーションをくれぐれもしっかりと取るように何度も念を押され、私をチーフとして送り出してくれました。

周囲の心配をよそに、やる気満々、鼻高々。「私の腕の見せ所だわ~」と意気込みました。

 

ところが!

いきなり初日の東名高速道路の最初のトイレ休憩で洗礼を受けたのです。

9名の派遣添乗員たちは誰も私の指示に従ってくれません。まだ携帯電話を誰も持っていない時代でしたので、バス同士の連絡は無線で行うのが常でしたが、バス会社が違うので無線も通じず。派遣さん達は意図的に私を無視するかのように勝手にいろいろと決めてバスの乗務員さん達に指示していきます。

私が乗車していたバスのドライバーさんが途中、心配して声をかけてくれました。「添乗さん、他の添乗さん達ともっと話した方がいいんじゃない?」

そうなのですが、私が話をしようとすると9名は露骨に避けたり適当な返事をしたり。誰も私をチーフとは認めておらず無視をしているに近い状態でした。

 

それでも何とか京都に辿り着き、1日目がようやく終了。翌日のミーティングをしようと京都にいたリーダーが添乗員全員に召集をかけたのですが、9名はどこにもいません。さすがに出かけることはないだろうと、ホテルの方にもご協力いただき館内を探したところ、なんと9名は最上階のバーで1杯やっていたのです。

ここぞとばかりに私は道中の惨状をリーダーに訴えました。リーダーは黙って聞いていましたが特に何も言わず、「大変だったな。明日はうまくやるように。」と言っただけでした。真っ赤な顔をしてやってきた9名に対しても注意するでもなく、淡々と打合せは終了し、私は憤懣やるかたない思いでいました。

 

翌日の花の博覧会、神戸有馬での予定を終え、3日目の夜、東京の支店へ戻った時にはへとへとに疲れ果てて座り込んでしまいました。

すると、私を待っていてくれた先輩が優しく声をかけてくれました。

「ごくろうさん。大変だったな。リーダーから聞いたよ。よく頑張ったな。」

私はすっかり気が抜けてしまい、ひとしきり泣きじゃくった後、どんなに辛かったか悔しかったかを訴え、リーダーに対しての不満も先輩にぶちまけました。

すると先輩がこう言ったのです。

 

「リーダーはお前のいる前ではあいつらに何も言わなかったけど、お前のいないところで物凄い雷をあいつらに落としたらしいぞ。ホテルの人から聞いたんだけど、あんなに怒ったリーダーは初めて見たって。

どうしてお前の前ではあいつらに何も言わなかったか分かるか?あいつらは最初からお前に対して非協力的というかあり得ない態度だった。派遣添乗員としてはあり得ない態度だ。あいつらもプロだから、何か原因があると思ってまずはあいつらの言い分を最初に聞いたらしい。

あいつらがお前をいじめともとれる態度で終始接したのは、出発前の引き継ぎ打合せミーティングの時、あいつらの言葉を借りればお前が「偉そうで自分たちを軽視している」と感じたかららしい。それが事実かどうかは別として、あいつらはそう感じた。チーフとしてお前をたてることに抵抗を感じたらしい。

だからと言って、あいつらの態度は許されることではない。

けれども最年少で、添乗経験から言ってもお前の方があいつらよりも少ない。チーフだからと言って頑張りすぎるのではなく、あいつらに協力を求め、助けてもらうくらいの姿勢で臨むのがよかったんじゃないかな。

お前の前であいつらを叱ったら、お前に気がついてもらうチャンスを逸してしまうからと、リーダーはわざとお前のいないところであいつらと話をしたらしいよ。いいリーダーだよな。

これからも、お前より年齢も経験もずっと上の人と一緒に仕事をして、しかもお前がチーフを張る場面がいくらでもあると思う。チーフだから偉いとか仕事が一番にできるとかじゃないんだ。いかに全体をまとめてお客様に喜んでいただけるかを考えるのがチーフなんだ。今回はいい勉強になったな。次もよろしく。」

 

涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔をハンカチで拭いながら先輩の話を黙って聞いていました。

着ていたスーツのスカートのウエストがグルグルと周り、私、少し瘦せたかも・・・ と帰って体重を測ったら、出発前より5kgも痩せていました。いかに濃い3日間だったのか改めて実感しました。

 

24歳の春の手痛い失敗は、今も私の中で鮮明な記憶として残っています。

チーフだろうとリーダーろうと、マネージャーでも経営者でも、それはあくまでも役割りであって、人として偉いわけでも優れているわけでもないのです。

桜の季節になると若かりし頃の苦い思い出を思い出すと共に、今一度、今の自分のあり方を戒めるのでした。

 

 

 

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