戦略人事組織開発

第5回 形骸化するEVP:ありがちな5つの失敗パターンとその本質

「作ったけど、何も変わらない」EVP

「EVP、作ってみたけど…何も変わらなかった」
「立派な言葉を掲げたけど、社員からは『ふーん』って反応」

そんな企業の声を、私は何度も耳にしてきました。

EVPは、言葉だけ整えても意味がありません。
「らしさ」を見つめず、「伝え方」を考えず、「使い方」を練らずにつくられたEVPは、
むしろ逆効果になることさえあります。

今回は、実際に私が見てきた「EVPが形骸化する5つの失敗パターン」と、
そこに潜む「本質的な問題」を解説します。

失敗パターン①:「誰かの言葉を借りて」作ってしまう

× 他社の事例を参考にした結果、「うちの会社じゃない感じ」になる
× コンサルに丸投げして、自分たちが言えない言葉が並ぶ

本質的な問題:
「自分たちで言えないEVP」は、社内に定着しない。社員も共感しない。

よくある現象:

  • 採用ページには立派な言葉が並ぶ
  • 社員に聞くと「そんなふうに思ったことないです」

言葉に「体温」がない。だから、伝わらない。

失敗パターン②:現場を見ずに「頭で考えて」作ってしまう

×「現場に聞くのは時間がかかる」
×「自社のことは自分たちが一番分かっている」

本質的な問題:
実際に「価値を感じている」のは現場。
経営や管理の視点と現場の実感にズレがあると、EVPは「説得力のないポスター」になります。

ある企業の例:
経営陣は、当社の強みは「顧客対応の柔軟性」と語っており、
現場インタビューをしてみると「丁寧な確認プロセスが安心感につながっている」という声が圧倒的多数でした。
そもそも、「顧客対応の柔軟性」は、顧客提供価値であり、社員提供価値ではありません。
経営陣の言葉に「待った」をかけることができなかった人事の方は、
EVPに「柔軟性」を採用しました。
社員の皆さんからは疑問の嵐が・・・。
その後、EVPを再構成する中で「柔軟性」から「安心に包まれた信頼感」へと軸を見直し、
現場との一体感が生まれました。

失敗パターン③:抽象的なスローガンにしてしまう

×「人を大切にする会社」
×「挑戦を応援します」
×「チームワークを重視」

本質的な問題:
誰にでも当てはまりそうな言葉は、誰の心にも届きません。

EVPは「自社ならでは」の表現である必要があります。
ありきたりな言葉は、響かないだけでなく「またか」と思われてしまう危険すらあります。

ある企業の例:
採用ページなどの広報戦略に使うなら、多少の「見栄えは」必要と考えた人事の方が、
せっかく温度感のあるその企業ならではの言葉を、綺麗に言い換えてしまいました。
新卒、中途ともに応募者数が少なく、思い切ってオリジナルの表現に戻したところ、
新卒の応募は10倍にも跳ね上がりました。
言い換えてしまった言葉は「挑戦できる」
もとの言葉は「失敗したって大丈夫」 でした。

失敗パターン④:「出したら終わり」にしてしまう

× 採用サイトに載せただけ
× 掲示して終わり、説明して終わり
× 社内では誰もその言葉を使っていない

本質的な問題:
EVPは「掲げる言葉」ではなく、「日常で使われる言葉」でなければ意味がない。

ある企業では…
「失敗したって大丈夫」がEVPに盛り込まれましたが、チームにはピリピリして緊張感が溢れていました。
新規案件を失注してしまった営業パーソンが、恐る恐るマネージャーに報告したところ、
マネージャーは「失敗したって大丈夫!」と言い、
「次に勝てばいい。しっかり振返りして、次に活かすぞ。」と励ましました。
この瞬間、チームの緊張は、安心の方向へと変わり始めたそうです。

失敗パターン⑤:EVPを「採用のためだけ」と捉えてしまう

× 「求人票に載せる用の言葉」
× 「HR部門の持ち物」
× 「エンゲージメントや育成には無関係」

本質的な問題:
EVPは“採用スローガン”ではなく、「組織の文化そのものを写す価値の鏡」です。

  • 社員がやりがいを感じる言葉でもあり
  • 評価や育成とつながるキーワードでもあり
  • 社会に発信すべき企業らしさの軸でもある

経営者も含めて、部署を超えて使われなければ、浸透しません。

「伝える言葉」ではなく、「信じている言葉」か?

そのEVPが、社員にとって「現実」か、それとも「建前」か。
機能するかどうかは、言葉の「うまさ」ではなく、「腹落ち」にかかっています。

EVPが機能するかどうかは、言葉の「うまさ」ではなく、「腹落ち」にかかっています。

  • 社員が「それ、うちっぽいよね」と思えるか
  • 経営者が「この言葉なら未来を託せる」と信じているか
  • 現場が「この言葉に自分を重ねられる」と感じているか

見栄えでつくったEVPは、誰にも届きません。
意味からつくったEVPは、自然と使われていきます。

そして、自然と使われる言葉は、文化になるのです。

次回予告:未来志向のEVP──Z世代、DEI、Well-beingとどうつなげるか?

次回は、EVPを「過去の棚卸し」ではなく「未来をつくる設計図」に進化させるために、
Z世代の価値観やDEI、ウェルビーイングなど、新しい経営テーマとの接続を考えていきます。

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