「言語化」で終わらせないEVP
前回お伝えした「自社らしさの掘り起こし」は、EVPづくりの最重要ステップです。
しかし、掘り起こして終わりでは意味がありません。
EVPは「使われてこそ、価値がある」戦略ツールです。
今回は、掘り起こした価値をどう言語化し、どのように社内外に展開していくか。
「作って終わり」にしないための、運用設計のポイントを解説します。
EVPの言語化:伝わる言葉にする3つのポイント
【1】社員の言葉を「素材」として使う
EVPは、コピーライターのように「上手いこと」を書く必要はありません。
むしろ、社員のリアルな言葉を使った方が、「あ、それ、うちっぽい」と共感されやすくなります。
例:
× 「イノベーションを推進する企業文化」
〇 「うちは『まずやってみよう』と言える雰囲気があるんです」
【2】「言葉の力」より、「意味の明確さ」を重視する
抽象的な表現は避け、「この会社で何が得られるのか?」が誰にでも理解できる言葉で伝えましょう。
たとえば:
- 「若手のうちから責任ある仕事を任せてもらえる」
- 「失敗してもフォローし合えるチーム」
- 「『ありがとう』が飛び交う職場」
【3】求める人物像とセットで伝える
EVPは「誰にとっての価値か」を示すことで、伝わり方が変わります。
例:
- 「裁量が大きく、自由に挑戦したい人には最高の環境」
- 「じっくり人と関わり、信頼関係を築くことに喜びを感じる人に向いている」
私が支援した企業様で、プロジェクトチームの皆さんが現場インタビューの後、
どんな言葉を選ぶかを検討していた時のことです。
聞こえの良い言葉、見栄えの良い言葉が並びますが、皆さん、心の中では「今一つしっくりこない」
と感じていました。
最初は「寄り添う」「誠実」など、社外向けの報告書に出てきそうな表現が溢れていました。
そこで、再度、深掘りしていった結果、皆さん一致して腹落ちしたのが「笑い合える会社」という表現でした。
笑い合える会社。これだけ聞けば、何の変哲もない平凡な表現です。
しかし、この企業様のここまでの背景を考えた時、この言葉は誰もが納得し、そうでありたいと願う
「意味なる言葉」だったのです。
見栄えや聞こえの良い表現を追うのではなく、働く人達の魂がこもった言葉にしなければ意味がないのです。
社内への展開:「浸透」を目的にする
【1】理念やビジョンとつなげる
EVPは、単独で存在するものではありません。
経営理念やビジョンとの整合性があるかを必ず確認しましょう。
逆に、EVPがあることで「理念が現場でどう体現されているか」を示すツールにもなります。
【2】制度・評価とリンクさせる
「成長できる会社」と打ち出すなら、育成制度やフィードバック文化が整っているか?
「チームワーク重視」と言うなら、個人評価ばかりになっていないか?
EVPと人事制度にズレがあると、社員の共感は得られません。
むしろ「言ってることとやってることが違う」と逆効果になり、社員のやる気や信頼を失います。
【3】浸透には「対話」が必要
ポスターや社内報に掲載するだけでは不十分です。
ミーティングや1on1など、対話の場でEVPに触れる機会をつくることが重要です。
たとえば:
- 「うちの会社の魅力って、どこだと思う?」
- 「どんなときに『この会社でよかった』と思った?」
日常の中でEVPを感じ、語れるようになることが、最終的な「浸透」です。
多くの企業は、「作って終わり」になりがちです。
浸透が大切だと理屈では理解していても、「そんな時間を割く余裕がない」のを理由に挙げ、
「仕方がないんだ」の言い訳が先に立ちます。
浸透のためのワークショップや研修もあるに越したことはありません。
しかし、日々の活動そのものがEVPの浸透に大切なのです。
ちょっとした会話のやり取り。
上司から部下へのフィードバック。
お客様対応。
EVPに紐づいた言動に対して、お互いに「いいね」を伝える、「残念」と励ます。
日常の中の些細なやり取りにこそ、EVP浸透のチャンスがあります。
たとえば、SNSで「いいね」がつくと人は嬉しくなりますよね。
この「承認の力」を活かし、社内で「Thanks ポイント制度」を展開している企業様もあります。
一人が半期で20ポイントの持ち分を保有しており、自分以外の誰かに、
「Thanks」を贈る活動を促進しています。
この企業様のEVPに「ありがとうが飛び交う」という表現がありました。
なかなか面白い浸透活動ですね。
社外への展開:採用・ブランディングへの活用法
【1】採用ページや求人票に反映する
求人票の冒頭に、「うちの会社で得られる価値とは?」を簡潔に書くだけで、応募者の共感度が変わります。
例:
「あなたの挑戦を、チーム全体で応援する風土があります」
「営業ノルマはありません。数字より信頼を大切にする会社です」
【2】採用面接で語る「価値のストーリー」
面接で「当社の魅力は…」と語るときに、EVPを軸にしたストーリーを伝えると、他社との違いが際立ちます。
たとえば:
- 「実は、社員が『うちの会社の魅力』として一番に挙げたのは、『人の良さ』だったんです」
- 「理念を大切にしながら、現場が自走して動いているのが自慢です」
話し言葉ではなおさら、飾られた言葉よりも、本音から出てくる温度感のある言葉に人は惹かれます。
自社の「強み」とは、すなわち、他社との「違い」です。
現場ヒアリングで得た言葉の宝たちを、惜しみなく活用しましょう。
【3】定着・活躍に向けた「オンボーディング」にも活かす
入社後のフォローにもEVPは活用できます。
「この会社はこういう価値を大切にしている」という共通言語があれば、新人も早く馴染むことができます。
ただし、そのためには、先輩社員たちがEVPという共通言語を理解し、実践している必要があります。
もしその段階に達していない場合は、
採用時に「今まさに浸透を進めているところです」と正直に伝えましょう。
そして、「あなたがその旗振り役になってほしい」と、未来を共に作る立場として迎え入れるのです。
EVPは「使って育てる」もの
EVPは、一度つくったら終わりではありません。
会社の成長や変化に応じて、「育てていくもの」です。
- 浸透しないなら、伝え方を見直す
- 共感されないなら、原点を掘り下げ直す
- 働き方が変わったなら、価値の定義を再考する
EVPは静的なスローガンではなく、変化する組織の「現在地」を映す鏡です。
掲げるだけでなく、育て、使いこなしてこそ意味があるのです。
変化の中で「生きた価値提案」として進化させていきましょう。
次回予告:形骸化するEVP──ありがちな失敗パターンとその本質
EVPは、言葉だけが先行すると一気に形骸化します。
次回は「ありがちな5つの失敗」と、その奥にある本質的な落とし穴を取り上げます。
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