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腕組みを止めませんか?

1日の研修中、その殆どの時間を胸の前で両腕を組んで受講していたAさん。
ずっと気になっていましたが、敢えて私は何も言わずに様子を見ていました。

Aさんの受講態度はいたって真面目で、深く考え込むこともあれば、グループ討議の場合には積極的に発言もしています。
ただ唯一気になるのがその腕組みでした。

取組み姿勢が一生懸命であればあるほど気になった腕組み。
それは私だけではありませんでした。

休憩中、同じグループのYさんが私のところにやってきてポソリと言うのです。
「Aさん、腕組み止めてほしいんですけど。なんか、偉そうというか、威圧感感じてしまって・・・。」
年下のYさんにとってはAさんの腕組みが威圧的に感じられたようです。
「そういう発言とかありますか?」
私の質問にYさんは首を傾げます。
「そうも取れるし、そうじゃないとも取れるし。けれども腕を組んで、しかも少し体を反らし気味だと、普通、偉そうな感じはしますよね。」

Yさんが言いたいことはよくわかりますし、実は私も同様に感じていました。
しかし、できることなら私が講師の立場でAさんに注意するのではなく、Aさん自らそれに気づくか、Aさんの腕組みがチームに与える影響をチームメンバーの発信により全員で学んでほしいと思いました。

「YさんからAさんに伝えてみたらどうですか?」
私の提案にブルンブルンと強く首を横に振るYさん。
「年上の先輩に、しかもAさんに、そんなの絶対に無理ですよ。」
「じゃあ、Aさんと同じ格好をYさんもしてみたらどうですか?」
私の二番目の提案にもYさんは首を縦には振りません。
「尾藤さんから注意してくれないんですか?」
その質問に対する私の答えは「No!」です。
「自分で気づいてほしいし、Aさんの問題だけではなく、自分の言動が気づかずしてチームにマイナスの影響を与えるかもしれないということを、みんなに分かってほしいんですよね。それにこれが現場だったら、『先生、あの人注意してください』とはいかないですよね。ネガティブなことにも自分たちでクリアしていく、その知恵を手に入れてほしいんですよね。」

私が言いたいことを理解してくれたYさんは、チームでトライしてみると言ってくれました。

休憩後、チームディスカッションの際、私は彼らのグループの様子を伺っていました。
相変わらず腕組みのAさん。
眉間に皺を寄せて何かを考えているのか、椅子の背に体をやや反らし気味に持たせかけて、その様子はやはり少し偉そうにも感じられます。

グループ皆が黙り、何かについて考えていたその時、Yさんが口を開きました。
「Aさん、ずっと腕組んでて肩こりませんか?」
ディスカッションテーマとは全く違うYさんの言葉に、チーム全員が一瞬、「???」な様子になりました。
「え? ああ、癖なんだよね。腕組むの。」
そう答えたAさんに、Rさんが直球を投げ込みました。
「いっつも腕組んでるもんな。腕組むのって、心理的には防衛反応らしいよ。何に防衛してるの?」
答えに戸惑うAさんに追い打ちをかけるRさん。
「そっくりかえって腕組んでるの、危ないからやめた方がいいぞ。転んで背中打って骨でも折ったらシャレになんないし。」
大真面目にそう言うRさんにAさんは苦笑いしながら自白しました。
「偉そうだってよく言われるんだよね。そんなつもりないんだけどね。けどそれよりも防衛反応とか言われる方が腹立つ。」
「何でもいいから腕組みやめろよ。健康に良くないし、チームの雰囲気にも多少なりとも影響するからさ。」
Rさんのあっけらかんとした物言いに、Aさんも頷き、解いた両腕のやり場に困りながらも「防衛反応じゃないから」と繰り返していました。

それから後の時間、Aさんは腕を組んだり解いたりを繰り返しながら研修に臨んでくれました。
何より特筆すべきは、終了後のAさんの感想です。
「今日の一番の気づきは、自分の意図しない行動(腕組み)が周囲に悪影響を与えていたということです。自分では癖だから仕方ないくらいにしか思っていなかったけど、その癖がみんなを不愉快にしていたんだと気づきました。なおしていこうと思います。」

Rさんという歯に衣着せずモノを言うメンバーがチームにいたことも手伝って、Aさんに大きな気づきが起きたようですが、そのきっかけを作ったのは勇気を出して最初の一言を発したYさんです。
そもそもAさんが真面目で一生懸命な人だったことも功を奏したのでしょう。
けれども一番のtipsは、自分たちでソコへ辿り着いた、お互いを導き合ったということです。

日常の現場において、チームの雰囲気が落ち込んだり、ちょっとしたことがきっかけで毒素が蔓延したりということは普通に起こります。
その時、「今、自分たちはどんな状態か?」「どうしたら毒素を払えるか?」と自分たちで解決できることが必要です。

「腕組みやめたら?」と言葉にできたチームは自浄作用が働いているチームです。
終了前最後の振り返りで今日一番の気づきをメンバーの前で話すAさんに対して、チーム全員が学ぶ材料を提供してくれた功労者だと私が評したのは言うまでもありません。

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