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汚れた仕事は断わろう

「それってコンプライアンス違反ですよね?」

声を荒らげて抗議の質問をする私に当時の上司は鋭い眼差しで睨みつけて言いました。
「Sさんを敵に回して多くの取引を失ったら何億損失すると思ってるんだ?お前に責任取れるのか?」

談合が公然の秘密として堂々と行われていたことだけでも私にとっては非常な驚きだったのに、地域の有力者Sさんに仕事の受注と引き換えに現金を渡すということに、信じられない思いでいっぱいになりました。悔しいやら情けないやら腹立たしいやらで身体がわなわなと震え、涙をこらえるのが必死でした。

「嫌です。できません。キャッシュを払わなければ失注だというのならばそれでもかまいません。そんな汚い仕事はできません。」
猛然と抗議する私に、上司は跳ねつけるように言い放ちました。
「もういい。お前がやらなくても。」

その時以来、私の居場所はなくなってしまいました。皆が汚れて見えました。
どうして「いけないこと」をみんな平然とできるのだろう。売上が上がればそれでいいのだろうか?
私がしなくても他の誰かがやってしまう。
その事実を分かっていて、私は自分の手が汚れなければそれを見て見ぬふりをして過ごすことでいいのだろうか?
一体どうすれば良いのか・・・。
会社にはいられなくなってしまう。職を失ってしまう。

心の葛藤は長くは続きませんでした。
いけないことはいけない。ダメなことはダメ。
トップが間違っているならNoと言うのは下の務め。
捨て身の覚悟でコンプライアンス担当マネージャーに電話をしました。
緊張で番号を押す手は震え、声は上ずってかすれてしまいました。

暫くして職場に査察が入りました。時を同じくして私は異動になりました。
転職活動をしなくてはと思っていたのでほんの少しだけホッとしました。
その後、誰かが「やった」のか、歯止めがきいたのかは分かりません。
ただコンプライアンス担当マネージャーが優しく言ってくれました。
「君の勇気に感謝する。どうもありがとう。」

私は会社が好きでした。
売上を上げ収益を上げることは大切ですが、それ以上に、間違った方法で得た汚れたお金で会社を汚してしまう事は納得がいきませんでした。
何より間違っていると承知の上でそれを行うことが自分にはできませんでした。
違うものは違う。できないものはできない。
失職を覚悟で業務命令を拒否できたのは若かったからかもしれません。
ただ幸運だっただけなのかもしれません。

これからももしかしたら間違った方法、汚れたお金を選択するよう強要される場面に出くわしてしまうかもしれません。
それでも不正は必ずいつか明るみになる。明るみにならなかったとしても、自分が納得できない仕事は絶対にしない。
そこだけは絶対に曲げることなく、常に堂々と前を向いていようと思っています。

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