経営者や管理職の皆さんは、リーダーシップを「コミュニケーションスキル」や「マネジメント手法」といった「技術の習得」と考えることが多いのではないでしょうか。
もちろん、それらは必要です。
しかし、本当に組織を動かすリーダーは、小手先のスキル以上の変化を遂げています。
それは、人が世界をどう捉えるかという「思考のOS」、つまり器の拡大です。
高い複雑性(VUCA)が常態化した現代において、優秀なはずのリーダーが組織を停滞させてしまう原因は、この「OSの古さ」にあります。
実際にあったリーダーの変化
では、「思考のOS」をアップグレードし、組織を真に変革するリーダーは、何が違うのでしょうか。
ある組織で、長期的に主要業務から離脱していた社員の復帰に際し、現場から不満が出るという状況がありました。
通常なら説明やルール運用で収束を図りがちですが、この難題に直面したリーダーは、全く異なる対応をしました。
まず「自分自身の過去の辛い経験」を振返り、それを単なる感情的な記憶としてではなく、「他者の痛みを理解するための客観的なデータ」として捉え直しました。
そして、「自分が最も苦しかったとき、何が救いになったか」という普遍的な信念を抽出したのです。
さらに、リーダーは、現場社員の不満の原因となりうる目の前の損得(現状のルール)や、「不満が出るだろう」という周囲の予想ではなく、「誰一人取り残さない」という、自らの成熟した認識に基づく信念を組織に提示しました。
そして、リーダーが自身の信念に基づいた「想いの開示」を行うことで、社員の意識は「自分の損得」という個別的な関心から、「我々はどういう組織でありたいか」という、より高次の共通目的へと導いたのです。
リーダー自身の振り返り
「これまでは自分中心で物事を考えていました。
成果や効率ばかりに目が行き、他者の気持ちを想像することができていなかったと思います。
でも、コーチングを受けてから、「人の痛みを理解しよう」という姿勢を持てるようになりました。
命令よりも、想いを伝えることの方が、はるかに人を動かす力になると実感しています。」
私はこの言葉を聞いたとき、人が成長するとはまさにこういうことだと強く感じました。
成人発達理論で捉える「器の拡大」
成人発達理論では、人の発達を「段階」として説明します。
先ほどのリーダーの変化は、まさに「段階3(自分中心の枠組み)」から「段階4(自律的に他者や組織全体を捉える枠組み)」への移行の表れでした。
単なる「共感スキル」ではありません。
自分自身の経験を客観的に振り返り、それを他者理解の拡張へとつなげたのです。
組織を率いるリーダーにとって、この「器の拡大」は非常に重要です。
なぜなら、組織の複雑性が増す中で、過去の成功体験や形式的なルールに縛られたリーダーは、知らず知らずのうちに組織を停滞させてしまうからです。
「器」の発達は、自然には起きません。
自分の「思考の枠組み」は、自分自身では見えにくい「盲点」を含んでいるからです。
この発達を加速させるには、二つの方法が考えられます。
1.「なぜ自分はそう考えるのか?」という自己客観化の訓練:
自分の行動や判断の基準を、「これは誰のルールか?(会社か、世間か、自分自身か)」と問い続け、自分の思考の枠組みを常に批判的に分析してください。
2.外部のプロフェッショナルな鏡の活用:
自分の能力や判断の「盲点」をハッキリと指摘し、あなたの「思考のOS」に揺さぶりをかけられる、外部のエグゼクティブコーチの力を借りる。これが、内省を「変容」へと繋げる最も効率的かつ論理的な手段です。
複雑性に対応できるリーダーとは、「正しいスキル」を持つ人ではなく、「複雑性を受け止められる器」を持つ人です。
そのためには、器の拡大、すなわち、思考のOSのアップグレードが必要です。
それこそが、組織の持続的な成長と、真のリーダーシップを発揮する鍵となります。
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