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穴があったら入りたい

「不尽」の二文字で結ばれた筆書きのその手紙を読み終え、私は実に愚かなことをしてしまったのかもしれないと思った。
もう夜の10時を過ぎていた。
朝になるのを待って、手紙の主のオフィスに電話をした。

その方は大きな組織のトップを務めている。
電話は一回ではすんなり繋がらないだろうと覚悟していた。
ところが予想に反して1コール目で受付と思しき声の女性が電話に出、ほんの少しの間の保留音の後、私が詫びたいその方に電話はすぐに繋がった。

「いやぁ、どうもどうも!この前はありがとうございました!」
その方は、先日初めてお会いした時とは別人のように明るく大きな声で、電話の向こうから私を出迎えてくれた。
満面の笑顔と大きな身振り手振りが電話でも私にははっきりと見えた。

「昨日お手紙が届き拝読したのですが、私は大変失礼なお手紙を差し上げてしまったのではないかと思い、お詫びを申し上げたくてお忙しいのは承知しておりますがお電話を致しました。本当に申し訳ございません。」
その方のオフィスが関東近郊ならば、私はまだ夜の明け切らぬうちに車を飛ばしていたと思う。
飛行機に乗らなければ1日がかりとなってしまう場所にその方がいることを、少し恨めしく思った。

「いやいや、全然そんなことはないですよ。まあ、ゆっくりとやっていきますから!」
変わらぬ明るい声で実に気さくに受け答えして下さった。

話をしたのはおそらく1分にも満たない。
その間、電話の向こうからは、その方の明るく温かに光り輝く笑顔のハッピーオーラがずっと私に伝わってきた。
来月の再会を楽しみにしていることを告げて電話を切ると、涙が溢れてきた。
自分の愚かさが情けなく、恥ずかしく、その方にとてもとても申し訳なく、いたたまれない気持ちだった。
時間を巻き戻せるのならば、私が投函してしまった手紙を取り戻して破り捨ててしまいたい。
まさに「穴があったら入りたい」気持ちだった。

先月、初めてお目にかかった時、その方からちょっとしたご相談を受けた。
時間の関係もあり、あまりゆっくりとは話ができなかった。
おまけに周囲の騒音がひどく、よく話を聞きとることができなかった。
話が中途半端に終わってしまったことへのモヤモヤがあり、私にいつものお節介心がむくむくと顔を出し、その方に手紙を書いてしまったのだ。
レターコーチングとまではいかないけれども、それに近い内容になってしまったと思う。
頼まれてもいないのに。長々と・・・。
本当にお節介な私・・・・。
自分では全くそんなつもりはないのに「上から目線~」と友人が時折茶化すのは、おそらく私のこういうところなのかもしれないと、今更ながらに気がついた。

いくらこちらが良かれと思ってしたことでも、今回の私の行為は単なる「押し付け」に過ぎない。
過去に何度も失敗してきているのに、またやってしまった。
私の場合、一番の曲者は「何とかしてあげたい」という気持ちが強すぎるということ。
余計なお世話だというのに。
いや、自分では全くの無意識だが、どこかに傲りがあったのかもしれない。

私の気持ちが一方的に空回りしてしまうと、迷惑がられたり、ハラスメントと受け取られなかったり、はたまたそういう気質を利用されて逆に騙されたことが過去には何度もあった。
はぁ・・・。全く成長していない私。
いや、こんな風に冷静に我が身を振り返ることができるようになっただけ、ほんの少しは成長したのかもしれない。
以前までは全て相手のせいにしていたけど、今は自分の愚かさが原因なのだとしっかりと受け止めることができるようになったのだから、ある意味これは、私にとっては成長なのかもしれない。

その方のお手紙に書かれていた胸に突き刺さった言葉。
「人を理解することは命がけです」

そんな思いをお持ちの組織トップの方だから、今現在、多少のひずみがあったとしても、私がつべこべ口を出さずとも、自然とうまく機能していくに違いない。

ああ。本当に情けない。本当に恥ずかしい。
私はこの仕事を命がけでしているのだろうか?
まだまだ思いが足りないのかもしれない。
だから空回りしてしまうのかもしれない。

「弘法も筆の誤り」とはとても言い難い、「猿も木から落ちた」話でした。

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