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理念と実態のギャップが蝕むリーダーの信頼

「自分の会社を全く誇れません。」

創業25年のオーナー企業に勤める総務マネージャーFさんから、「理念と実態の乖離」についての深刻な相談を受けました。

社長・専務によるワンマン経営、怒声、高い離職率、労基署からの指導、そして経営難。
特殊なケースに見えるかもしれませんが、企業理念が形骸化し、組織内に「性悪説」や「不信感」が蔓延する状況は、程度の差こそあれ、多くの企業が直面している課題ではないでしょうか。

Fさんのケース

転職後、「失敗した」と思いながら働き続けるFさんに、「なぜ辞めないのか」と私は問いました。
40代半ばでの再転職への不安、そして涙。
しかし、会話の中でFさんの口から出てきたのは、意外な「学び」の言葉でした。

「辛い5年間で、ぬるま湯では得られなかった知識や対応力を身につけた」
「『人のふり見て我が振り直せ』で、理念を自分なりに実践しようと必死だった」

Fさんが持つ「総務マネージャーとしての細やかな気配りや、劣悪な環境下での泥臭い対応力」こそが、何にも代えがたいスキルであり、彼女の「思い」がなせる業だと伝えました。
仕事は資格でするものではなく、「思い」と「実践知」が最も大切です。

組織の病理とリーダーの責任を指摘

Fさんの「人がどうかではなく、自分が理念を実践する」という自律的な姿勢は、本当に素晴らしいものです。
しかし、一歩引いて組織全体を見た時、この状況は非常に危険な状態にあると言えます。

Fさんのような自律性の高い社員が奮闘している裏側で、組織全体としては以下の深刻な問題が進行しています。

  1. リーダーシップの欠如:
    創業者の「理念」と「行動」の乖離は、社員の「組織への信頼」を根底から崩壊させます。
    トップが「人に優しく」を実践していない状況で、社員に「人に優しくあれ」と求めることは、リーダーシップの放棄に他なりません。
  2. 組織学習の停止:
    社員が定着せず、不満が蔓延する組織は、失敗から学べません。
    労基署からの指導や訴訟リスクも、短期的な対症療法で終わらせ、根本的な組織の構造や文化を変えようとしないため、病巣は深まる一方です。
  3. 理念の「バッジ化」:
    理念が日々の行動指針として機能せず、ただの「飾り(バッジ)」になっている状態です。
    Fさんは「理念は素晴らしい」と言いますが、社員が実践できているのは、トップの言行一致がないからこそ、理念を『見限って』自衛的な行動に移っている結果とも言えます。

これは、リーダーが「理念」を自らの行動で体現し、組織全体をその方向へ導くという、最も基本的な「エグゼクティブ・リーダーシップ」の機能が麻痺している状態です。

Fさんは「まだ私ができることがあるかもしれない」と、当面は残留を決意しました。
これは彼女の強さの証明です。

しかし、「自律性の高い優秀な社員に『個人の頑張り』という名の重荷を背負わせている」という事実は、経営層・リーダー層にとって、自社の組織風土、そして自らのリーダーシップを深く見つめ直すための、極めて重い問いかけとなるはずです。

理念を掲げるだけでは、組織は変わりません。
理念を「魂」として組織に吹き込み、日々の意思決定、評価、コミュニケーションに落とし込む具体的な「仕掛け」と、それをやり抜く「リーダーの覚悟」が必要です。

あなたの会社の理念は、今、どれだけ社員の行動と結びついていますか?

リーダーであるあなた自身が、最も理念を体現できていますか?

「理念と実態の乖離」は、組織の持続的な成長を阻害する最大の要因です。
このギャップを埋め、理念を軸とした「真のリーダーシップ」と「機能する組織文化」を再構築したいとお考えでしたら、現場の実態と組織論に基づいた具体的なサポートをご提供します。
まずは、貴社の組織の「理念の現在地」について、お話を伺わせてください。

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