社会人2年目の春、大きなツアーの添乗チーフを任されました。400人近いお客様を、私を含めて10人の添乗員がお世話させていただくというものです。
「お前以外は全員がグループ会社の添乗員だけど、優秀な人材ばかり集めておいたから大丈夫だろう。お前だったらできるはず。」マネージャーは私をそう言って送り出してくれました。
ところが期間中、誰も私の言うことには耳を貸してくれず、9人は皆一斉に私を無視するのです。私は泣き出したいのを必死にこらえて9人の年上男性達に指示命令を出します。
「チーフの指示に従ってください。これは私だけでなく、本体(親会社)からの命令です!」
しかし物の見事に全員が私を無視です。表面上、お客様にご迷惑をおかけすることはなかったと思いたいのですが、おかしな空気は漂っていたに違いありません。
ツアー終了後、いかにひどい9人だったか、私はどれほど大変だったかを私は上司に訴えました。しかし、上司の言葉は私が想像していたのとは全く別のモノだったのです。
「彼らは優秀な添乗員だとお客様からも評判が高く、今回のようなことは初めてらしい。何が、彼らにこんな愚かな行動をさせたのだと思う?」
「そんなこと、私はわかりません!」
「お前、頑張りすぎたんじゃないのか? 相手は全員年上の男性。添乗員としての経験も知識も向こうの方が圧倒的にある。お前が助けてもらえるようにそういうメンバーをアサインしたんだけど、お前、あいつらに助けてもらうなんて気、さらさらなかったんじゃないか?張り切りすぎたんだろう?」
「助けてもらう?」鼻っからそんな考えは頭にありませんでした。親会社の正社員なんだからしっかりしなくっちゃ!全員年上の男性だけど、バカにされないようにがんばらなくっちゃ!チーフは私なんだから、彼らが私の言うことを聞くのは当たり前。彼らが従うように毅然としなくっちゃ!
一番最初の時点から、私は思いっきり上から目線で彼らにモノを言い、「親会社なんだから」「チーフは私なんだから」と、ただ肩書やポジションだけで彼らを動かそうとしていただと思います。
「尾藤、お前はこれからもいろんなやつらと仕事をしていく。年上だったり、グループ会社だったり、同業者の横断的プロジェクトだったり。お前がチーフを切る機会はこれからもたくさんあるだろう。けどな、チーフは一人じゃ何にもできない。みんなが動いてくれなかったら、ただの名ばかりチームに過ぎない。チームの仲間がどんなやつらだろうと、仲間に対するリスペクトがないと、そいつらも動いてくれないぞ。俺は思うんだ。暴れ馬を乗りこなすのもまたリーダーの手腕。力やポジションでねじ伏せるんじゃなくて、相手に対する愛情や思いやり、リスペクトが人を、暴れ馬をも動かすんだと俺は思うけどな。」
人を力で無理やりに動かそうとしても、反発されればそれでおしまい。肩書やポジションで相手をねじ伏せようとしても、それは無理なのです。グループ会社のメンバー全員にそっぽを向かれ、マネージャーに諭されて初めて気がついた、人を動かす、いえ、人に動いてもらうのに大切なコト。あの時は本当に辛く凹みましたが、今となっては貴重で得難い経験をしたと思っています。