「EVPの中身」は、誰が決めるのか?
EVPのフレームワークを手に入れたからといって、すぐに魅力的な提案ができるわけではありません。
よくある誤解は、「EVP=いいことを言えばいい」という思い込みです。
本当に大切なのは「自社らしさ」とは何かを見極めること。
言い換えるなら、「この会社だからこそ得られる価値は何か?」を言語化する前の探索が必要なのです。
なぜ「自社らしさの掘り起こし」から始めるのか?
【1】フレームワーク先行では、魅力は伝わらない
EVPには確かに5つの要素(仕事/人間関係/環境/文化/報酬)というフレームがあります。
でもそれはあくまで「箱」であって、「中に入れる価値」は会社ごとに違うのです。
たとえば、「チームワークが良い職場です」と言っても、
それが「自主的に動く自由なチーム」なのか、「阿吽の呼吸で支え合う風土」なのかで、
意味はまったく異なります。
だからこそ、自社らしい「言葉」と「意味」を掘り起こすことが最優先なのです。
【2】「自社らしさ」は、現場にある
では、何から始めればいいのでしょうか?
答えはシンプルです。
「現場の声を聴くこと」です。
- なぜこの会社に入社したのか
- この会社のどこにやりがいを感じているのか
- どんなときに「この会社で良かった」と思うのか
- 他社では得られなかった経験とは何か
現場社員が語る言葉の中に、「無意識に選ばれている理由」が眠っています。
ところが、「現場に手間をかけたくない」「時間がない」などの理由で、
人事やプロジェクトの限られたメンバーだけで、考えて作ってしまうケースが多々見受けられます。
EVPの「言葉」と「意味」は、頭で考えるものではなく、「現場にある」ものです。
そこに確かにあるものを知る手間を惜しんで、考え練られた言葉で表現しても、
多くの社員からすると、それは「飾り物」に過ぎず、自分達が感じている価値とズレてしまいます。
実際に私が支援した企業では、
「自社の魅力や強みが何かわからない」という上級管理職が多くいましたが、
現場の若手から中堅社員に1on1インタビューを実施したところ、
「若手の結束が非常に強くて、お互いに成長を励まし合える」
「現場リーダーが親分肌で面倒見が良くて、本当に『かっこいい』」
と言葉が多く聞かれました。
経営層が思っていた「顧客対応力」や「スピード感」ではなく、
「成長できる場」「人間関係の安心感」この会社の魅力だと明確になり、
それを軸にEVPを再構成することで、離職率が大きく改善しました。
現場の声を丁寧に拾い、聴く。
それが、EPVつくりの最初の一歩です。
掘り起こしのための3つの方法
① ストーリーベースの1on1インタビュー
選抜した社員に、定量ではなく定性の深掘りインタビューを実施します。
- 「最もこの会社に貢献できたと感じた瞬間は?」
- 「心が折れそうになったけど、支えられた出来事は?」
- 「自社を一言で表すと?」
こうした問いから得られる言葉には、会社の価値観や文化の「本音」が詰まっています。
② サーベイ+自由記述
全社員にアンケートを行うのも有効です。
ただし、選択肢だけでなく自由記述欄を設けることで、リアルな温度感が見えてきます。
たとえば:
- 「自社にしかない魅力を教えてください」
- 「知人に自社を紹介するなら、どんなふうに説明しますか?」
数値だけではなく、「言葉の背景」を読み解くことがカギです。
今の時代、グーグルフォームなどを活用すれば、簡単にアンケートを行うことができます。
自由記述のコメントは、AIに力を借りれば、難なくまとめることができ、
必要なら、その言葉の裏にある「感情」までもを読み取ってくれます。
自由記述に書かれた言葉は、良いものも、そうでないものも、
社員の皆さんからのラブレターと思って大切に取り扱いましょう。
③ 経営理念・沿革との照合
最後に、経営者や創業者の「原点の言葉」を再確認します。
- なぜこの会社を始めたのか?
- どんな社会的使命を感じているのか?
- なぜ今、採用や組織づくりに本気で取り組みたいのか?
EVPは、単なるスローガンではなく、事業の根っこと接続している必要があります。
経営の言葉と現場の声が一致してこそ、EVPは「空気のように浸透」していくのです。
EVPは「鏡」であり「通訳」である
EVPは、会社をよく見せるためのラッピングではありません。
むしろ、会社の本質を写す「鏡」であり、社外に伝えるための「通訳」です。
何を魅力とするかは、会社ごとに異なります。
その魅力は、社内のあちこちに眠っているのです。
見つけ出し、言葉にするプロセスこそが、EVP設計の第一歩なのです。
次回予告:EVPのつくり方(後編)
次回は、掘り起こした「自社らしさ」を、どう言語化し、どのように社内外へ展開していくのか?
設計・運用フェーズに入ります。
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