戦略人事組織開発

第3回 EVPのつくり方(前編):自社らしさの掘り起こしから始める

「EVPの中身」は、誰が決めるのか?

EVPのフレームワークを手に入れたからといって、すぐに魅力的な提案ができるわけではありません。
よくある誤解は、「EVP=いいことを言えばいい」という思い込みです。

本当に大切なのは「自社らしさ」とは何かを見極めること。
言い換えるなら、「この会社だからこそ得られる価値は何か?」を言語化する前の探索が必要なのです。

なぜ「自社らしさの掘り起こし」から始めるのか?

【1】フレームワーク先行では、魅力は伝わらない

EVPには確かに5つの要素(仕事/人間関係/環境/文化/報酬)というフレームがあります。
でもそれはあくまで「箱」であって、「中に入れる価値」は会社ごとに違うのです。

たとえば、「チームワークが良い職場です」と言っても、
それが「自主的に動く自由なチーム」なのか、「阿吽の呼吸で支え合う風土」なのかで、
意味はまったく異なります。

だからこそ、自社らしい「言葉」と「意味」を掘り起こすことが最優先なのです。

【2】「自社らしさ」は、現場にある

では、何から始めればいいのでしょうか?
答えはシンプルです。
「現場の声を聴くこと」です。

  • なぜこの会社に入社したのか
  • この会社のどこにやりがいを感じているのか
  • どんなときに「この会社で良かった」と思うのか
  • 他社では得られなかった経験とは何か

現場社員が語る言葉の中に、「無意識に選ばれている理由」が眠っています。

ところが、「現場に手間をかけたくない」「時間がない」などの理由で、
人事やプロジェクトの限られたメンバーだけで、考えて作ってしまうケースが多々見受けられます。

EVPの「言葉」と「意味」は、頭で考えるものではなく、「現場にある」ものです。
そこに確かにあるものを知る手間を惜しんで、考え練られた言葉で表現しても、
多くの社員からすると、それは「飾り物」に過ぎず、自分達が感じている価値とズレてしまいます。

実際に私が支援した企業では、
「自社の魅力や強みが何かわからない」という上級管理職が多くいましたが、
現場の若手から中堅社員に1on1インタビューを実施したところ、
「若手の結束が非常に強くて、お互いに成長を励まし合える」
「現場リーダーが親分肌で面倒見が良くて、本当に『かっこいい』」
と言葉が多く聞かれました。
経営層が思っていた「顧客対応力」や「スピード感」ではなく、
「成長できる場」「人間関係の安心感」この会社の魅力だと明確になり、
それを軸にEVPを再構成することで、離職率が大きく改善しました。

現場の声を丁寧に拾い、聴く。
それが、EPVつくりの最初の一歩です。

掘り起こしのための3つの方法

① ストーリーベースの1on1インタビュー

選抜した社員に、定量ではなく定性の深掘りインタビューを実施します。

  • 「最もこの会社に貢献できたと感じた瞬間は?」
  • 「心が折れそうになったけど、支えられた出来事は?」
  • 「自社を一言で表すと?」

こうした問いから得られる言葉には、会社の価値観や文化の「本音」が詰まっています。

② サーベイ+自由記述

全社員にアンケートを行うのも有効です。
ただし、選択肢だけでなく自由記述欄を設けることで、リアルな温度感が見えてきます。

たとえば:

  • 「自社にしかない魅力を教えてください」
  • 「知人に自社を紹介するなら、どんなふうに説明しますか?」

数値だけではなく、「言葉の背景」を読み解くことがカギです。

今の時代、グーグルフォームなどを活用すれば、簡単にアンケートを行うことができます。
自由記述のコメントは、AIに力を借りれば、難なくまとめることができ、
必要なら、その言葉の裏にある「感情」までもを読み取ってくれます。

自由記述に書かれた言葉は、良いものも、そうでないものも、
社員の皆さんからのラブレターと思って大切に取り扱いましょう。

③ 経営理念・沿革との照合

最後に、経営者や創業者の「原点の言葉」を再確認します。

  • なぜこの会社を始めたのか?
  • どんな社会的使命を感じているのか?
  • なぜ今、採用や組織づくりに本気で取り組みたいのか?

EVPは、単なるスローガンではなく、事業の根っこと接続している必要があります。
経営の言葉と現場の声が一致してこそ、EVPは「空気のように浸透」していくのです。


EVPは「鏡」であり「通訳」である

EVPは、会社をよく見せるためのラッピングではありません。
むしろ、会社の本質を写す「鏡」であり、社外に伝えるための「通訳」です。

何を魅力とするかは、会社ごとに異なります。
その魅力は、社内のあちこちに眠っているのです。
見つけ出し、言葉にするプロセスこそが、EVP設計の第一歩なのです。

次回予告:EVPのつくり方(後編)

次回は、掘り起こした「自社らしさ」を、どう言語化し、どのように社内外へ展開していくのか?
設計・運用フェーズに入ります。

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