戦略人事組織開発

若手離職の連鎖を断ち切った!全員野球で変革を進める老舗企業の挑戦

「若手の離職が止まらない…」

新入社員が10名入社しても、1年後には2名しか残らない。
2年目から6年目の若手が連鎖的に退職し、気づけば中堅層やベテランまでやる気をなくし、転職を考え始める…。

これは、実際に私がご相談を受けた、創業80年の歴史を持つ老舗企業で起こっていた現実です。

「管理職だけが悪いのではない」—見えてきた真の課題

私はまず、役員の方々だけでなく、現場の営業・事務職、そして現場の社員の皆さんの声を、徹底的に集めました。
そこで見えてきたのは、役員の方々の認識とは全く異なる、深刻な問題でした。

社員の皆さんから聞かれたのは、役員への不満でした。

管理職の方々は、口々にこう言いました。

「役員が嫌いなわけではないんです。でも、尊敬できるかと言えば、違います。
自分たちが意見を出しても、結局は役員の思うとおりにひっくり返されてしまう。
一度始めたことも、いつの間にか立ち消えになって、その説明も不十分。
悪いことは全部僕たちの責任。
自分の子供をこの会社に就職させたいかと聞かれたら、Noですね。」

若手や現場の社員の声は、さらに切実でした。

「管理職の皆さんが可哀想で見ていられない。
自分たちが将来、ああいう立場になるのかと思うと、正直ぞっとしますよ。
そうなる前に、辞めるが勝ちだと思う。長居するところじゃないです。」

また、こんな声も聞こえてきました。

「だって、経営チームが『チームじゃない』から、僕らはやりづらいですよ。」

たった一つの理由で今があるのではありません。
しかし、経営層と現場の溝、経営チームそのもの問題、など、複合的に絡み合った事柄が、風土を悪化させ、それが社員のモチベーションをむしばみ、離職の連鎖を生むという状態を創っていたのでした。

「全員野球」への転換—信頼を取り戻すための戦略

この状況を打破し、社員が「この会社で働き続けたい」「この会社を良くしたい」と心から思える「全員野球」のチームを作るため、以下の戦略を実行しました。

1. 経営層へのアプローチ:経営チームを「一枚岩」に

社員の皆さんが、経営層に対してどのような感情を抱いているのか。

事実を経営層にありのままに伝えても、受け入れていただけるかは不明でした。
そのため、全員野球の「全員」には経営チームが含まれることを前提に、
「経営チームが『最高のチーム』となるために、どうあるか」をテーマに掲げました。

まず、システムコーチング®*を通して、経営チームが会社に及ぼす影響について考え、さらに、役員一人ひとりが自身のリーダーシップを見つめ直し、どうあるのが理想かを考えました。

「嫌われていない=好かれている」ではないこと。
「好かれるリーダー」ではなく、「尊敬されるリーダー」になること。

これが、経営層の当面の合言葉となりました。

経営層が変わる姿勢を見せることこそが、信頼回復の第一歩であり、経営チームのチームづくりは、全社にその取組みや経過を周知することで、本気度を示しました。

(*システムコーチング®とは、対象のチームやパートナーシップを一つの有機体と捉え、チーム・組織の関係性やシステムとしてのダイナミクスを扱い、システム全体の成長や持続的に適応できる力を育てるアプローチです。CRR Global Japanより)

2. 管理職へのアプローチ:思考停止を打破し「ジブンゴト化」を促進

次に、疲弊し思考停止状態に陥っていた管理職の皆さんを巻き込みました。

彼らに未来を創る面白さを実感してもらうために、「未来プロジェクト」を立ち上げました。
一定の予算を預け、管理職チームが主体となって新規事業の計画立案から実行までを行うものです。
これにより、彼らは「経営をジブンゴト化」し、ビジネスの面白みと手応えを肌で感じられるようになりました。

3. 全社を巻き込む:未来を創造する「全員野球」へ

さらに、この「未来プロジェクト」に若手社員を積極的に巻き込みました。
合言葉は「自分たちが100周年を飾る」です。
若手社員が会社の未来を自ら創る当事者意識を持つことで、プロジェクトはさらに本格的に動き出しました。

加えて、経営層と管理職がフランクに意見を交わす「ワイガヤ」の場を設け、役員による現場巡回やランチミーティングを定例化しました。
役員が現場のリアルな声に直接触れる機会を増やし、相互理解を深めました。


そして、最も重要な変革の一つが採用の見直しです。

これまで「労働力」として見ていた現場職の定義を、「会社の顔が輝ける場」へと大幅に改めました。
募集人材の要件も、単なるスキルだけでなく「この会社で働きたい」と心から思えるような内容に変更しました。
入社してくる新しい仲間たちが、会社の未来を共に創る大切な一員であることを明確に伝えました。

成果と学び:信頼が未来を創る

これらの取り組みの結果、この老舗企業は徐々に変わり始めました。

最初の変化は管理職でした。
未来プロジェクトに息を吹き返した管理職が一人、また一人と現われ、そこに未来の経営チームが生まれました。

管理職の変化を実際に見ている若手に、次の変化が訪れました。
徐々に活気が戻り始め、離職は止まり、「もうちょっと頑張ってみよう」「100周年の時には、自分は役員で仕切っている」という会話が出てくるようになりました。

最後の変化が経営層でした。
管理職の変化に刺激を受けて「任せる」「委ねる」機会が増えました。
若手の率直な発言で古い価値観を脇に置くことで、現場との会話が、「儀礼的」なものから「本音トーク」に変わっていきました。

まだまだ変化の途中にありますが、確実に、一歩ずつ、全員野球の道を歩み続けています。

この事例が示すのは、「全員野球」は、単なるスローガンではないということです。
全員野球の「全員」には、経営層も含まれます。
監督然として、上段から指揮命令を下すのではなく、経営層も「一緒になって」取り組む姿勢を見せることが大切です。
また、「会社の一員」ではなく、「自分の会社」という感覚を全員が持つことが必要です。
そのために、社員一人ひとりが「ジブンゴト」として経営に参画できる仕組みを創り出すことも大切です。
そして、何よりも信頼関係を築くことが、社員が100%の力を出し切り、未来を創る原動力となるのです。

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