昨日のブログ 【社員500名が奇跡のV字回復!M&Aで瓦解寸前だった製造業A社の「全員野球」経営術】では、「今いる社員の力を最大限に引き出す」ことで、困難を乗り越えた製造業A社の実際のお話をお伝えしました。
今回は、そのV字回復の最大の鍵となった「徹底的な対話」の舞台裏に迫ります。
社長の覚悟、そして「対話の質」をいかに高め、組織を「全員野球」へと導いたのか。
その「難しさ」と「肝」を深掘りしていきます。
M&A直後:失われた信頼と「どん底」の現場
親会社B社から新しい社長が派遣された製造業A社(社員数500名)。
当時のA社は、まさに「どん底」と呼べる状態でした。
社員のやる気は著しく低下し、活気は失われ、事故や製品の不具合が頻発していました。
リーダー層の業務知識レベルは低く、既存の仕組みや制度も形骸化していました。
親会社から「乗り込んできた」社長は、まさに完全アウェイの状態です。
そのような中で、状況を打開するため、社長が最初に踏み出したのが、社員一人ひとりとの「対話」でした。
しかし、口で言うほど簡単なことではありません。
「対話」の質を高めるための、泥臭くも本質的な取り組み
「対話」を単なる情報交換で終わらせず、組織変革の原動力とするために、A社では以下の点を徹底しました。
- 心理的安全性の確保が最優先:
当初、A社には対話の場を効果的にコントロールできるファシリテーターが不在だったため、私が参画しました。
何よりも重視したのは、場の「心理的安全性」を担保することです。
社員が安心して本音を語れる雰囲気作りが不可欠でした。
対話の目的を明確にし、対話から会社は何を得たいのか、この場が社員にとってどんな意味を持つのかを、社長自らが社員に説明しました。
この説明原稿は、社長が起案し、それを私が手直しさせていただきました。
さらに、社長には事前に何度も伝え方のトレーニングを重ねていただきました。 - 社長の「覚悟」が試される対話の現場:
最初のうちは、社長が社員からの厳しい意見に苛立ち、場に緊張が走る場面も何度かありました。
その都度、私が介入し、「この場は何のためにあるのか?」「この場が、どんなことを私たちにもたらしてくれると最高か?」と問いかけ、対話の本質に立ち返ってもらいました。
「口先だけでしょ」「綺麗ごと」といった社員からの厳しい意見にも、社長はそれを否定せず、「僕を見ていてほしい」「僕にそう思わせる言動が見えたなら、その場で教えてほしい」と、自らの覚悟を真摯に語り続けました。
社員の方たちは、日頃感じていた不安や不満を、すべて吐き出すようになってきました。
社長は、すぐに答えられることや改善できることはその場で約束し、時間がかかることは持ち帰り、期限を決めて必ず回答しました。
この地道な積み重ねが、社長と社員の間に少しずつ信頼を築いていくきっかけとなりました。
また、社長はA社をどんな会社にしたいのか、一時的な「腰掛」ではなく、A社とともに歩み、良くしていきたいという社長自身の想いを社員に伝え、それについても忌憚ない意見をもらい、自分の言葉で答えていました。 - 対話の文化を組織に根付かせる「社内ファシリテーター育成」:
外部コンサルタントの私が全ての対話の場に立つことは、組織の自律性を高めるために、望ましいことではありません。
また、対話の文化を内製化することが重要です。
そのため、回数を重ねるうちに、社内でファシリテーターを育成していきました。
候補者の抽出は、「場を俯瞰して見ることができる」「ジブンゴトで物事を考えられる」人を基準に、社長や人事とともに選定しました。
さらに、ファシリテーション能力は日常の会議やプロジェクト運営にも有効なため、研修の一環としてショートトレーニングをマネージャー層にも行い、その中からも選抜していきました。
リーダー層だけでなく、若手からもファシリテーターが育っていったのは、A社の組織文化変革の大きな兆しでした。 - 社長の「本気」が伝わる「時間」と「場所」:
10〜12名を1単位として対話を行い、多すぎず、一人ひとりの顔が見える規模を維持しました。
そのため、社長のスケジュール確保が最も困難な課題でした。
500名の社員全員と社長が対話をするためには、最低でも50回の対話が必要です。
さらに、リーダー層を中心とした対話、2回目、3回目の対話など、社長が本気でなければ、この膨大な時間を捻出することは不可能です。
もちろん、社長自身が現場に出向き、社員が普段仕事をしている場で話を聴くことにこだわりました。
最大の成果物:「自分たちがやるんだ」という「全員経営」意識
こうした「徹底的な対話」を通じ、A社に劇的な変化が生まれました。
それまでも社員の方たちは懸命に頑張っていましたが、旧経営陣からの情報発信が少なく、考えることを求められていなかったため、その頑張りの方向性がバラバラで、いわば「思考停止状態」に陥っていました。
対話を通じて、社員は「再建は経営者がする者でなく、『自分たち』がやるんだ」と、まさに「全員経営」の意識を持つことができたのです。
これこそが、V字回復に必要な、最大の成果物だったと言えます。
最強の伴走者:社長の覚悟を支えたエグゼクティブコーチング
この対話のプロセスで、社長は「苛立ち」や「弱気」など、様々な感情と葛藤していました。
私は、その感情に徹底的に共感し、寄り添いました。
社員の声を聞くアプローチに疑念を抱く時もあった社長に対し、私は、過去の名だたる経営者(ダイエー再建時の樋口さん、JAL再建時の稲盛さん等)が、まず現場の声を聞き、「何がそこで起こっているかを知る」と同時に、「社員の気持ちを前に向けるためには、トップが耳を傾けることが最も有効な手段」であることを、折に触れお伝えしました。
そして、B社から派遣された「雇われ社長」である彼に対し、「A社再建は、社長にとってどんな意味があるか?」「成し遂げられた時、社長にはどんな未来が手に入っているか?それは社長の人生にどんな意味をもたらすか?」など、再建がビジネスマンとしての義務だけでなく、「社長がやりたいこと」と意味づけられるよう、コーチングの王道アプローチを行いました。
その上で、経営者としての現実的な課題や悩みに対しては、必要なアドバイスや専門家の紹介も行いました。
私が一番心がけたことは、「どんな時にも、私は社長と伴走し続ける最強の応援団である」と、社長の心の支えになることでした。
わずか1年後に起きた組織の奇跡
こうした泥臭く、しかし本質的な取り組みを続けた結果、わずか1年後、A社では事故や不具合がゼロに!
親会社B社のマネージャーたちが、A社の組織運営や社員の活気ある働き方から学びを得ようと視察に来るまでになったのです。
これは、M&Aによる逆境の中、即戦力に頼るだけでなく、「今いる社員の力を信じ、引き出し、全員で成果を出す」という「全員野球」の考え方を、社長が自らの覚悟を持って信じ、徹底したからこそ実現できたV字回復事例です。
あなたの会社も、今いる社員の潜在能力を最大限に引き出し、「全員野球」でこの混迷の時代を生き抜く総力戦組織を目指してみませんか?
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