戦略人事

「ミドルマネジメントの疲弊」が経営を蝕む3つのリスク

ミドルマネジメント層に対して「覇気がない」「自律性に欠ける」という経営者のお話しをしばしば耳にします。
経営方針を現場に浸透させようとしても、受け身や熱意不足に見え、事業のスピード感が落ちていると感じるのかもしれません。

しかし、その状態は、個人の性格や能力の問題ではなく、組織に潜む構造的な要因による「疲弊」かもしれません。
この疲弊を放置すれば、組織全体の活力を奪うだけでなく、事業そのものの持続性を脅かす深刻な経営リスクに直結する可能性があります。

ミドルマネジメントを疲弊させる3つの根本原因

ミドルマネジメントの疲弊は、彼ら自身の問題ではありません。
むしろ、経営層の意図せぬ言動や、組織に根付く無意識の文化が彼らを追い詰めているケースが多々あります。

1. 意図せず生まれる「言葉の罠」と無意識のプレッシャー

多くの経営層は、社員に「チームへの深い貢献意識」や「仕事への誇り」を持ってほしいと心から願っています。
その想いを伝えるために、経営層は言葉を選びます。
しかし、その言葉選びを間違えると、言葉の持つニュアンスが独り歩きして、経営者が言葉に込めた真意が全く伝わらないどころか、逆効果になる場合があります。

例えば「他責はやめよう」と伝えた時、「自責ですね」と言われる場合がありますが、私は「ジブンゴト、または当事者意識」と言い直します。
広辞苑における「自責(じせき)」の意味は「自分で自分の過ちをとがめること」とあります。
経営層は、ジブンゴトとして捉えて、自分の考え方や行動を見直して前に進む学習者のスタンスを望んでいるはずですが、自責と言われると、「すべて自分のせいだ⇒自分自身を責めとがめる」思考を招きかねません。
これは、ミドルマネジメントに過度なプレッシャーを与え、精神的な疲労をもたらします。

貢献、挑戦、自律という現代の社員が好むこれらの言葉も、違う表現を使った場合、彼らにはまったく異なる価値観を押し付けられているように感じてしまう可能性があります。
さらに、組織で使われている言葉は、企業文化(風土)としてSNSや就職・転職サイトに発信され、「あの会社は・・・」という、経営者が全く意図しない評判を生む場合もあります。
これらは採用難やアンマッチを招き、ミドルマネジメントの疲弊の原因にもなっていくのです。

2. イノベーションを阻害する「成功体験の呪縛」

過去に会社を成長させた成功体験は、経営層にとってかけがえのない財産です。
しかし、それが「理想のリーダー像」や「仕事への姿勢」として絶対視され、組織の「らしさ」として固定化されてしまうと、大きな弊害を生みます。
この「成功体験の呪縛」は、新しい挑戦やアイデアを提案しようとする社員の意欲を削ぎ、異なる意見や発想を持つミドルマネジメントを孤立させます。
結果として、組織全体の思考が硬直化し、変化の激しい市場環境に適応するための柔軟な発想が失われてしまいます。
過去の成功モデルを押し付けることは、未来の可能性を閉ざすことにつながるのです。
そして問題なのは、経営層が「押し付けている」という自覚がないことです。

3. ミドルマネジメントを孤立させる「コミュニケーション不足」

ミドルマネジメントの「板挟み」状態は、単なる感情的な問題ではありません。
それは、経営層と現場をつなぐ重要な役割を果たしながらも、その役割を全うするための構造的なコミュニケーション不足によって引き起こされます。
具体的には、ビジョンの共有不足(経営層の想いが現場に浸透しない)、権限移譲の不足(責任だけが与えられ、意思決定に必要な裁量がない)、そして成果への評価不足(奮闘が正しく評価されず、モチベーションが低下する)が、ミドルマネジメントを孤立させ、彼らの疲弊を深刻化させているのです。

疲弊がもたらす3つの深刻な経営リスク

ミドルマネジメントの疲弊は、放っておくと経営そのものを揺るがす「病」です。
なぜなら、次のような深刻な経営リスクが連鎖的に発生する可能性を秘めているからです。

リスク1:潜在的な経営層へのコミットメントの低下

経営層の意図が理解できないミドルは、次第に経営方針への共感やコミットメントを失っていきます。
彼らは、経営層のメッセージをただの「伝言ゲーム」として現場に伝えるだけの存在になり、自らの仕事に意味を見出せなくなります。
これは、組織の土台を揺るがす最も深刻な問題です。

このコミットメントの低下は、さらなるリスクを誘発します。

リスク2:組織全体の実行力低下

経営層へのコミットメントが低下したミドルは、経営方針を現場に熱意をもって伝えられなくなります。
彼らがリーダーとしての求心力を失うことで、メンバーも指示された仕事をこなすだけになり、チームとしてのパフォーマンスが停滞します。
結果として、組織全体の実行力が低下し、事業目標の達成が困難になります。

リスク3:イノベーションの停滞と次世代リーダーの欠如

新しい挑戦やアイデアに対する意欲が失われ、組織全体の思考が硬直化します。
これにより、変化の激しい市場環境に適応できず、競争優位性を失うリスクがあります。
また、彼ら自身が多忙とストレスで余裕を失っているため、部下の育成に十分なエネルギーを注ぐことができません。
結果として、将来の組織を担うリーダー候補が育たず、持続的な成長が不可能になります。

ミドルマネジメントを元気にするために、まず経営層がすべきこと

ミドルマネジメントの疲弊は、個人の能力不足ではなく、組織文化そのものに深く根差した問題です。
健全な組織を築き、これらのリスクを回避する第一歩は、経営層が自らの言動や価値観を客観的に見直すことから始まります。
言葉の持つ力を理解し、過去の成功体験から一度離れて、対話を通じて信頼関係を再構築することです。

もし、あなたの会社で「ミドルに元気がない」と感じるのなら、組織文化とリーダーシップのあり方を根本から見直すことこそが、組織を持続的に成長させる第一歩です。

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