あなたに質問です。以下を読んで、あなたの「判断」を教えて下さい。
あなたは、「無農薬で育てられた安全な食品だけを使ったフレッシュジュースで、お客様の健康と笑顔をサポートします。」というジューススタンドの店長です。店長には店を切り盛りする権限がすべて与えられており、店のコンセプトに共感しているあなたは大きなやりがいをもって仕事をしています。
素材と味、接客にこだわった店のジュースは朝夕の通勤客に大人気で、朝食代わりに楽しみにスタンドにやってくるサラリーマンやスタイルを気にする女性で大繁盛。1杯の価格は決して安くはないのですが、売り上げも好調で、マネージャー候補に推薦を受けています。
ある朝、届いた材料を見てあなたは愕然とします。仕入先から届いたのは、台風の影響を受けて、無農薬ではなく農薬使用の有機栽培野菜や果物でした。仕入先の言い分では、いつもの無農薬素材を届けられるのは、3日先になるとのこと。台風による収穫の影響と交通障害もあり、どうしようもないとのことです。
開店時間まで1時間を切りました。さあ、あなたはどうしますか?
①無農薬を謳っているのだから、有機栽培であっても使うわけにはいかない。売上減は痛いが、基準に合った素材を仕入れられるまで、店は休業にする。
②農薬使用でも有機栽培の商品は良質なものも多く、仕入先も良いものを選んで持ってきてくれている。お客様に無農薬かそうでないかの違いはわからない。売上を下げるわけにはいかない。このまま開店する。
③農薬使用のものを使うのは店のコンセプトに反するが、休業3日間の売上げ損失を考えると自分だけで決めることは難しい。マネージャーに相談して判断を仰ぐ。
権限を与えているのに、判断を上司に求めて自分で決めようとしない部下がいるとしたら、それは部下個人の性格によるものではなく、組織の判断基準が不明瞭だからかもしれません。判断基準には理念やバリューも含まれます。高らかに理念やバリューを謳っていても、上司や経営層の日常の判断がそれらに即したものでなければ、部下たちは理念やバリューを判断基準とは捉えないでしょう。
「素材は無農薬限定。仕入れができない時はメニュー調整や休業はやむを得ない。」と明確に定められていれば、店長は判断に迷うことはないと考えるかもしれません。しかし、実際の営業会議で売上ばかりを追求される状態が繰り返され、「お客様の健康と笑顔のサポート」のためにどんな活動をしているかに無関心な社風であったなら、店長は売上を落とさない選択を採るかもしれません。
部下に権限をゆだねる時、ただ責任と権限を与えるのではなく、明確な判断基準も併せて伝えなければなりません。存在しないなら、整えてから委ねるべきです。また、理念やバリューの実践は何物にも勝るというゆるぎない信念と実行動が、常日頃からトップを初めてとしたマネジメント層に必要です。それらマネジメント層の日常の言動を見て、組織で働く人たちは自分たちの行動指針とするのです。
部下が決められない。権限を渡しているのに上司に判断をゆだねる。
このような時、決められない部下を責めるのではなく、「判断基準は明確か」「理念やバリューはトップマネジメント層が体現しているか」を見直してみることが必要です。部下が決められない理由は部下個人よりも、それ以外のところに起因していることが実はとても多いということを忘れてはいけません。