「彼は、指摘すると、必ず反発した言い訳が返ってくる。」
「『自分はできている』と思っているけど、あの自己評価の高さは、どこから来るんだ?」
多くの管理職が「厄介だ」と感じている自己評価が高いメンバー。
その対応に苦慮するお声やご相談は、今も昔も、非常に多いのが現実です。
多くの上司がやってしまう失敗
こうしたメンバーに対して、多くの上司は「できていない点」を指摘し、「こうすべきだ」とアドバイスします。
しかし、いくら言葉を選んで言い方を工夫したところで、自己評価が高いメンバーに、このやり方は効果がありません。
防衛反応を招いてしまう。
または、表面的従順を一時得られたとしても、本質的な変化に至らないことが殆どです。
その理由はいたってシンプルです。
そもそも、否定されて嬉しい人はいません。
まして、「できている」と思っているのに否定されるということは、その人から見たら、「攻撃された」に等しい感情を抱かせるかもしれません。
防衛反応はもちろんのこと、相手に対して敵意を抱き、逆切れという攻撃反応さえも起こるかもしれません。
つまり、「できている」と思っている人に、「いや、本当はできていない」と告げることは、相手からすると宣戦布告であり、関係性破壊をもたらす行動を、意図せずして自ら行っていることに等しいとも言えます。
特に自己評価が高いメンバーほど、この反応は強くなります。
なぜなら「自分はできている」という自信が、新しい視点を受け入れる余地を奪ってしまうためです。
解決策:コーチング的関わり方
では、どうすればいいのでしょうか。
答えは、「自分で気づいてもらう」ことであり、その手段として効果的なのが、コーチング的関り方です。
コーチング的関わり方の基本は、3つ:
- 否定しない – 相手の言い分、現状をまず受け止める
- アドバイスしない – 答えを与えず、考えさせる
- 問いを投げかける – 気づきを促す質問をする
上司が部下を変えるのではなく、本人が「あれ? できていないかも」と気づく。
そのプロセスを支援するのです。
事例:ある管理職の変化
状況:
- 自己評価:「私はメンバーとコミュニケーションが取れている」
- 実態:部下との面談では、自分がほとんどの割合を話している。
- 課題:「部下は自分の経験談やアドバイスを知りたい」と本人は思い込んでいる。
「もっと、部下の話を聴いてください。」
「あなたが話すのではなく、部下の考えを促す問いかけをしてください。」
この管理職に対して、上記のような発信は、効果的とは言えません。
コーチング的関りは以下のようになります。
「あなたは、部下に、どんなふうに成長してほしいと願っていますか?」
「あなたが目指す上司像は、どんなものですか?」
「部下にとって、良い面談とは、どのようなものだと思いますか?」
「部下が、あなたと会話をすると『自分で答えを見つけられた』と感じられたら、あなたとの関係性にどんな変化が起きると思いますか?」
これは、実際にあったクライアントさんの例です。
この管理職の方は、自分の「思い込み」や「思考と行動のクセ」に自分で気づき、その結果、「何を行い、何をやめるか」を自分で決め、実行しました。
その結果、わざわざ面談の時間を設けずとも、「部下から相談に来るようになった」「部下が自分から〇〇したい」と言ってくるようになったと、笑顔で報告をしてくれました。
実践のポイント:明日から使える3つの問い
自己評価の高いメンバーと話す時、指摘やアドバイスの代わりに、こんな問いを投げかけてみてください。
❶ 「あなたが理想とする○○の姿は、具体的にどんなものですか?」
・相手の理想を明確にする。
・理想がリアルに明確であればあるほど、②③の問いの答えが変わってくる。
❷ 「その理想と、今の状態を比べた時、10点満点で、今、何点ですか? その点数の中身(できていること)は何かを教えてください。」
・相手の自己評価の「根拠」が明確になる。
・理想が低ければ、自己評価が高いのも、納得できるかもしれない。
・理想が明確になっていれば、ここで自己評価の修正が起こる可能性がある。
・「できている」の中身を言語化することで、相手自身が気づく。
・双方の認識ギャップがあれば、「『できている』とは具体的にどのような状態か」を確認できる。
自己評価の点数が高くても、「点数の中身、できていることを教えてください」とそのまま質問してください。
「できていること」「わかっていること」と本人が言葉にすることで、採点が変わってくる可能性もあります。
❸ 「1点上げるために、何をしますか?または、何をやめますか?」
・自己決定を促す。
答えがすぐに出てこなくても、焦らず待ってください。
沈黙は「相手が考えている時間」です。
それこそが、気づきを生む大切な時間です。
「効果があるの?」「時間がかかるのでは?」という懸念について
確かに、コーチング的アプローチに即効性はありません。
しかし、脳科学の研究では、こんなことが分かっています。
他者からの指摘: 脳の防衛反応が働き、情報を拒絶する。たとえ従っても「やらされている」という認識。
自己の気づき: 脳の報酬系が活性化し、情報を積極的に取り込む。「自分で決めた」という当事者意識が生まれる。
つまり、時間をかけることで、また、様々な角度から問われることで、指摘による修正とは比較にならない「本質的な変化」が起きるのです。
さらに、自分で気づいたことへのコミットメントは、他者からの指摘に比べて圧倒的に高い。
これは「メタ認知(自分を客観視する力)」が働くためです。
指摘は、短期的には効率的に見えます。
しかし依存や他責を生み、自己評価が高いメンバーには反発を生みます。
一方、自己気づきは、継続的な成長エンジンとなるのです。
たった一つの問いから始めよう
自己評価が高いメンバーは、決して「厄介」な存在ではありません。
彼らは、適切な関わり方さえあれば、大きく成長するポテンシャルを持っています。
指摘する代わりに、問いかける。
答えを与える代わりに、考えさせる。
変えようとする代わりに、気づきを待つ。
この関わり方の転換が、メンバーの自己評価を「メタ認知」により適切なものに変え、自律的な成長を促します。
あなたが「厄介」と思うメンバーがいたとしたら、たった一つで良いので、問いかけを変えてみませんか?
その小さな一歩が、メンバーの大きな変化の始まりになるかもしれません。
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