ショルダーバッグを肩にキャリーケースを引きながら、新宿駅で山手線を待っていました。
平日昼間の時間帯。通勤ラッシュ時のような混雑はないものの、それでも新宿駅にはたくさんの人がいました。
私が並んでいる列には前に男性のお年寄り。私。赤ちゃんを乗せたバギーを押しているお母さんでした。
電車が到着し、私はバギーのお母さんに順番を譲りました。荷物持ちの私よりもバギーの方が大変なのは誰が見てもわかります。
おじいさんがふらつきながらもゆっくりと電車に乗りました。続いてバギーの赤ちゃんとお母さん。私がキャリーケースを先に電車に乗せてから身体も乗せようとしたその瞬間、ドアが閉まり、バギーがドアに挟まれてしまいました。
え???
手を離すとバギーだけが電車に乗せてられてしまいます。
これから出張。大切な仕事道具が入っているバギーを手放すわけにはいきません。
必死でバギーをホーム側に引っ張り出そうとしましたがドアはびくともせず、もう片方の手でドアを開けてバギーを引っ張り出そうとしました。
その時!
バギーがドアからホーム側に飛び出て私の左足に勢いよく当たったのと同時に私の体がよろけ、右肩にかけていたショルダーバッグが電車とホームの間の隙間からホーム下へ落ちてしまいました。
あ!
10メートルほど先の駅員さんが笛をけたたましく鳴らし旗を振りながら「下がって!下がって!」と私を睨みつけます。
無情にも電車は扉を閉めたまま発車。私のバッグは・・・・・
幸か不幸か、バッグはホームの端っこの枠のようなところに落ちていて、電車に踏まれることもなくたたずんでいました。(バッグのファスナーもしっかりと閉じていたので中身も飛び出していません)
ピ! ピ!! ピ~!!!
先ほどの駅員さんが私を睨みつけながら、尚も笛を吹きながら旗を振り続けています。
一部始終を見ていた杖をついたご婦人がおっしゃいました。
「きっと、バッグが落ちたの知らないのよ。赤ちゃんを先にしてあげたのにあなたがこんな目にあって気の毒ね。あなたの荷物、見ていてあげるから、駅員さんにバッグのこと、言ってきなさい。」
私はそのご婦人のご厚意に甘えて、駅員さんのところへ駆け寄りました。
「あのぉ。バッグを・・・」
「知ってるよ!見てたよ!! 今、人呼んでるから。下がって!危ないだろう!!!」
最後まで言い終わらないうちに怒鳴られました。
驚きと戸惑いと、急に襲ってきた脚の痛みで頭が混乱しました。
荷物を見ていてくれるご婦人のところへお礼を言って戻ると「聞こえたわよ。こっちにまで。ひどい駅員さんね。」とおっしゃいました。
苦笑いしながら痛む足をさすっていると、ホーム下に落下した荷物を吊り上げる道具を持った駅員さんがすぐにやってきました。
ところが!
「おい!余計なことするな! 今、こっちで呼んでるから。お前は何もしなくていい。呼んでるんだから!!」
先ほどの駅員さんが離れたところから、私のところへやってきた駅員さんを怒鳴りつけました。
「申し訳ありません。お急ぎでしょうが、もう少しお待ちください。私は荷物を引き上げることができません。ごめんなさい。」
そう言って駅員さんは去っていきました。
その後、2本の電車を見送り、特急に乗り遅れることを覚悟しながら待っていると、ようやくやってきた駅員さんが引き上げた荷物を「気を付けてくださいね」と手渡してくれました。
一体何だかなぁ。
怒る気には全くなれなかった私。
私はバギーのお母さんに順番を譲らなかったらバギーの赤ちゃんが挟まれていたのかなぁ。
あの駅員さんは「見てた!」けど、何を見ていたんだろう。
あの駅員さんはどうして怒鳴っていたんだろう。
あの駅員さんにとって、一番大切なコトは時間通りに電車を運行させることだったのかなぁ。
荷物を拾い上げにすぐにやってきた駅員さんを、あの駅員さんはどうして追い返したのだろう。
JR職員のミッション、ビジョンって何なんだろう。
JR職員がJRのブランドを向上させるためには、あの場合、どんな行動が良かったんだろう。
私があの駅員さんと共に働く同僚だったら、あの行為を一部始終見ていたとして、どんな風に関わるだろう。
私があの駅員さんの上司だったら、あの駅員さんにどんなことを言うだろう。
私があの駅員さんの立場だったら、どんな行動をしただろう。
今回の事から私は何を学んだのだろう。
起こることにはすべて意味がある。そのメッセージを読み取ることが成長につながる。
痛む足を引きずりながら何とか予定の特急に飛び乗り、ずっと「学習者」の視点を保とうとひたすら考えたのでした。