「彼らに何回言っても無駄なんだ。君の方が物分かりがいいし、だから、君の方が彼らに歩み寄ってくれないか。」
Sマネージャーの話に憤慨したのは、転職して半年が過ぎた今も、同じチームのK先輩から理不尽な嫌がらせを受けているHさんでした。
必要なミーティングの日時を教えてもらえなかったり、引継ぎをしてもらえなかったり、部門間会議で攻撃的な発言をされたり・・・。
周囲がHさんを心配するほどK先輩のイジメはある意味堂々としていました。
そんなHさんに対して、K先輩にもっと歩み寄れというSマネージャー。
Hさんは訳が分からずこう訴えました。
「私が私でいちゃいけないの?どうして嫌がらせされてる方がイジメてる方に折れなきゃいけないの?」
そう言って延々90分間、私に惨状や不満・鬱憤を話しつくしたHさんは、話し終えた後は90分前とは打って変わって表情がすっきりしていました。
「心静即身涼(こころしずかなれば すなわち みすずし)」を地でいったような表情の変化でした。
Hさんは本当は自分でもわかっているようでした。
Sマネージャーに期待してもそれは難しいだろうこと。
Kさんが自分に対して何故こうも嫌がらせするのか、心当たりの要因が2つあり、そのうち1つは自分自身の努力で改善行動に結びつけることができること。
90分間、ひたすら話をした後、Hさんはさっぱりした様子で言いました。
「『チームなんだから私は信じてる』と私はいつも言っていて、本当にみんなのことを信じてるんだけど、K先輩のことは信じていませんでした。被害者意識が出てきていました。K先輩と完全断絶しても私の仕事は何の問題もなくまわっていくけど、K先輩は恐らくそうではなくて、チームとして考えた時、それは問題で、その視点が欠落していました。媚びるとか折れるとかじゃなくて、チームミッションのことを考えた時、私とKさんがギクシャクしてKさんのパフォーマンスに影響が出るのだとしたら、それは私にも責任の一端があるということだし、チームパフォーマンスが上がらないのは私としても悔しい。私からもっと積極的に声をかけるようにします。」
その翌日、早速報告をくれたHさん。
「K先輩に声をかけたけど、見事にスルーされました。最初はこんなもんですかね。」
「最初っからいきなり上手くはいかないよね」とある意味、達観しているHさんの目には、チームミッションの完達しか見えていないようです。
どちらかと言うと一匹狼的なHさん。
とてもウェットで旧態然とした昭和の価値観からなかなか抜け出せないKさん。
極力面倒なことには関わりたくないSマネージャー。
なかなかユニークな仲間に対してHさんが考えたのが「共通のゴール」でした。
やり方は違っていてもいい。
個人の価値観をわざわざ合わせる必要はない。
けれども「共通のゴール」を目指すということだけは皆、忘れてはいけないし、たどり着かなければいけない。
「チームとしての共通ゴール」の考え方にフィットしたHさんの行動は、それまでとはだいぶ変わったようです。
自分だけのミッション達成だけでなく、みんなが勝手にそれぞれ頑張ってチームミッション達成でもなく、それぞれに頑張るのは良いけれども、それを邪魔しない、可能であれはサポートし合う、という思考になったことで、より歩み寄り、より声を掛け、より自らもオープンスタンスに自然になれたようです。
「ありがとうございます!」
ととても感謝をしてくれるHさん。
いえいえ、私はただ話を聴いただけ。
すべての答えはHさんが自分で紡ぎだしたもの。
彼女の中にこそ答えがあり、それを彼女自身が気づき、行動に移したのであり、私は本当に聴いていただけ。
強いてそこに私が意識して行ったことを付け加えるとすれ、「愛情をもって」「興味を持って」「Hさんが気持ちよく話せるように」「一緒に森の中をブラブラと散歩するように」ただ聴いていたのです。
「聴く力」って本当にすごい!
そのことを今日も実感しながら、Hさんの報告を楽しく「聴いて」いるのでした。