地方空港から同じ便に乗り合わせた40代と思われる男性は、2本のストックを両手に身体を何とか支えながら、不自由な足でゆっくりゆっくりと前へ進んでいました。
その便が羽田に着いたのは68番ゲート。到着ロビーまではかなりの距離を歩かなくてはなりません。
私は訳あって、一番最後に飛行機を降り、それからロビーへ向かったのですが、すぐにその男性に追いつきました。
ロビーまではまだ半分も来ていないと思われる個所ですが、はぁはぁと肩で大きく息をして背中に背負ったリュックが一層身体に負担をかけているように見えました。
途中なので車いすも近くにはありません。
その男性を気の毒に思った私は、「お荷物、お持ちしましょうか?」と声を掛けました。
すると、その男性は汗を拭いながら笑顔で言ったのです。
「大丈夫です。ありがとうございます。僕はマイペースでいきますから、どうぞ気にしないでください。」
あまりにもあっけからかんと、そして本当に輝くような笑顔でそう答えた男性に、「気の毒」と思った私は、なんと傲慢だったのだろうと恥ずかしくなりました。
健常者の傲りが自分では気づかずしてあったのかもしれません。
憐れむ心で自分勝手に満足していたのかもしれません。
そのまんまの状態を受け止めて、変に隠すことも誰かに甘えたり媚びることもなく、ただ、そのまんま自分らしく前へ進むその男性に、人間の美しさ、本来のあるべき姿を見た思いがしました。
どんなあなたもそのまんまで素晴らしい。
どんな自分もそのまんまを愛しむ。
「お気をつけて」と言うのも違うと思い、「ではお先に失礼いたします」と私も笑顔で言葉をかけて、先に進むことにしました。
「ありがとうございます。お気をつけて。」
男性の明るい声が私の背中から聞こえました。
見ず知らずの旅先ですれ違っただ男性から、人として大切なことを教えていただきました。