「頼まれたらもちろん頑張りますけど、マネージャーには僕以上にやってほしいんですよ。だって、マネージャーなんですから!」
自分への期待を嬉しく思いながらも、マネージャーが自分以上に仕事をしていないのが不満で仕方がないKさんは、何とかマネージャーにももっとがむしゃらに仕事をするよう促してほしいと私に訴えました。
「マネージャーなんだから、部下よりも頑張りが少ないとか、あり得ないですよ。だったら僕だって、マネージャー以下にしかやらないですから。」
口をとんがらせて更に訴えるKさん。
こらこら、ええ加減にせんかい!
と怒りたくなるのをグッとこらえて私はKさんに言いました。
「じゃあ、Kさんの好きなようにテキトーにすれば。」
彼にとっては予想外の私の言葉にKさんは面食らったようでした。
そこで私は
「あのさぁ!」
と一呼吸おいて、それから一気にまくしたてました。
「親しかり、学校の先生しかり、上司しかり、この世に完璧な人間なんていないのよ。もちろん私も、Kさんも。
マネージャーだから自分より頑張らないといけないとか、そういう『べき論』とか言ってないで、『自分が損してるみたいでイヤだ』と正直に本音を言った方が遥かにいいよ。だって、そんなのバレバレなんだから。
けどね、何度も言うけど、完璧な人間なんてこの世にいないんだよ。
それで、人間は自分勝手だから、自分に都合の良いような完璧な人間を求めて、そうじゃないと文句言うんだよね。
けど、マネージャーからしてみれば、Kさんは完璧な部下じゃないかもしれないよ。お互い様じゃない。
マネージャーに完璧を求めない。相手に完璧を求めない。親にも奥さんにも子供にも、あ、私にもね。」
私の暴言(?)にすっかり驚いたKさんでしたが、自身が完璧主義のKさんは「部下としてあなたは完璧じゃない」の一言が心にぐさっとつき刺さったようで、すっかりうなだれてしまいました。
「自分が理想を目指すのは良い事だし、頑張ればいいと思うし、応援したいと思う。けどそのイメージを相手に求めたり押し付けるのは違うと思うよ。
Kさんが理想の部下を目指すのであれば、相手が誰であれ、例えば今のマネージャーのように、ちょっとのんびり屋さんで頼りないように感じる上司であっても、そんな上司にとっての理想の部下を目指そうと、もっと柔軟に楽しんで仕事してみるといいんじゃないのかなぁ。
あくまでも『完璧』を求めるんじゃなくて、『理想』を求める方がいいと思いうよ。
べきべき論でやるんじゃなくって、もっと、柔らかく、柳のようにしなやかに、そして楽しんでね。」
批判の矛先を上司に向けていた完璧主義のKさんでしたが、今のマネージャーにとっては自分は良い部下ではないということに目が覚めたのか、やる気モードに火がついたようでした。
「尾藤さん、相変わらずビシッと厳しいですね。けど、僕にはこれくらいじゃないと効かないんで、気がつきました。上司が完璧じゃないと文句言う前に、理想の部下になってみせます!」
なんとも頼もしい宣言をしてくれたKさんです。
もちろん私だって、誰にでもキツイわけではなく、Kさんだから大丈夫という胸算用があって言っているのですが、こちらの気持ちが伝わってホッと安心しました。
人はついつい相手に対して完璧を求めてしまいがちです。
大切な存在存在であったり、尊敬する存在であったり、そうであればあるほど求めてしまいます。
けれども「完璧な人」はいないのです。
みんな凸凹。素晴らしいところもあれば、ちょっと残念なところもあるのです。
どんな人にも、あなたにも、私にも。
だから、相手に完璧を求めない。
もちろん自分自身にも。でないと自分を追い詰めて苦しくなってしまいますからね。
求めるのならば・・・
自由に楽しく思い描いた「自分なりの理想」を追求したいものです。