どうしても自分が所属する営業1部よりも2部のメンバーの方が優秀に思えて仕方ないマネージャーのKさん。
ことあるごとに2部のメンバーのAさんは、Bさんはと彼らの良いところを挙げ、それに比べてうちのメンバーのXさんは、Yさんはと自分のメンバーのネガティブポイントを悲しみます。
営業成績はどちらも同じくらいで大きな差があるわけではありません。
強いて言えばKマネージャーの1部はいわゆるダイバーシティの宝庫のような多様なメンバーで構成されており、2部はどちらかと言うと生粋のガチガチ自社育ちで「ザ・体育会」的メンバー構成です。
「隣の芝生は青いものね」
私がそう言うと、
「だって実際問題、絶対に2部の方がいいですよ。2部の芝生の方が青々としているんですもん。仕方ないですよ。」
と口を尖らすKさん。
そんなに言うのならと、私はKさんが考える2部の良いところを列挙してもらいました。
するとまあ、出るわ出るわ。
根性、やる気、元気がある、多少の事でメゲナイ、上下関係がしっかりできているなど、本当に「ここは体育会か?」と思うくらいにKさんが考える2部の良い点がたくさん出てきました。
「じゃあ、1部の良い点は?」
すると途端に口ごもるKさん。
「ないから困ってるんじゃないですか。2部の良いところの少しでもあったらなぁ。」
とまたまた愚痴に走ります。
「1部のメンバーと2部のメンバーは、そもそも全く別の人たちで構成されているわけで、2部の良いところを1部に求める方がおかしいと思うけどなぁ。
それって、お寿司の良いところを焼肉に求めて、やれ素材の良さを生かしていないとか、盛り付けががさつだとか言って文句を言っているのとおんなじに聞こえるけどね。」
私の料理へのたとえが突飛だったようで多少面食らった感があったKさんですが、それでも1部メンバーに2部と同じものを求めること自体に無理があることは理解してくれました。
「自分が創りたいチームを思い描くのは大切だけど、そのために『こういうメンバーじゃなきゃいけない!』じゃなくて、今いるメンバーをどう生かして理想のチームを創るかがマネージャーの腕だと思うけどね。
豚肉がないとチャーハンが作れないんじゃなくって、卵とネギしかなくっても美味しい卵チャーハンができるように、それぞれの素材の良さを生かしていかに美味しく仕上げるかが良いコックさん、つまりマネージャーの仕事じゃないの?」
むっつりと不機嫌そうに私の話を聞いていたKさんですが、「で?メンバーそれぞれの良いところは?」との促しに、ポツリポツリと語り始めました。
「Xさんは突飛な発言が多いけど、それが新しいきっかけになったりするからアイデアマンではあるかも。Yさんはリーダーとしては大人しくてグイグイ引っ張っていくリーダーシップはないけど、優しくて人が気がつかない所にもよく気が回って、だから皆な、なんでも相談できてるみたい。」
こうしてメンバーの良いところ探しを始めたKさん。
ただ言葉にするだけではなく、それを紙に書き留めてもらいました。
一人ひとりに対しての良いところをできるだけたくさん、ほんの小さなことも見落とさずに思いつく限りを出してもらいました。
いつも大きな声で挨拶できる。
お客様によくお土産をもらって帰ってくる(可愛がってもらっている証拠)
失敗を隠さない。
メンバー同士仲が良いが、厳しい事も言い合える。
机の上が綺麗に整理整頓できている。 等々
もうこれ以上は出ないというところまで書き尽くしたKさんに、私は質問してみました。
「まだ隣の芝生は青い?」
苦笑いするKさん。
「1部のメンバーにはあいつらの良さがある。野球を見て、ラグビーのような荒々しさがなくってだらしない情けないと言っても、野球には野球の面白さや良さがある。ヒマワリを見てバラのような可憐さが無いと言っても、ヒマワリにはヒマワリの力強さや良さがある。
隣の芝生が青いのは、目の前にあるものの良さ、確かにあることをちゃんと見て分かっていないからそうなるんであって、それができていればならないって、言いたいんでしょ?
比べたって仕方ない。『足るを知れ』って言いたいんだよね。」
私が多くを語ることもなく、自ら考え気づきを深めてくれたKマネージャー。
まさに彼の言う通りです。
隣の芝生が青いのは、今目の前にあるモノ・コトをきちんと見ていないからそう感じるのであり、どんな状況であれ、どんな環境であれ、今目の前にあるモノ・コトをしっかりと見つめ、足るを知ることができれば、そこに感謝の気持ちが生まれこそすれ、隣の芝生を青く感じることはないのだと思います。
あなたは今、隣の芝生を青く感じていますか?
そんなあなたは、今、目の前にあるモノ・コトの良いところを全て思いつく限りに紙に書き出し、その事実に心から『ありがとう』と感謝の言葉を100回呟いてみてください。
きっと自分の芝生こそが大切に思え、隣の芝生のことなど気にならなくなるに違いありません。