多くの企業が人材確保に頭を悩ませ、即戦力採用にばかり目が向きがちです。
しかし、本当に強い組織は、「今いる社員の力を最大限に引き出す」ことで、いかなる困難も乗り越えていきます。今回は、まさにその「全員野球」を実践し、V字回復を遂げたある製造業の事例をご紹介します。
買収直後:失われた「やる気」と頻発する「不具合」
これは、M&Aによって親会社の傘下に入った、社員数500名の製造業A社の話です。
親会社B社から新しい社長が派遣され、組織は大きな変化の中にありました。
当時のA社は、まさに「どん底」と呼べる状態でした。
- 社員のやる気は著しく低下し、活気は失われていました。
- 事故や製品の不具合が頻発し、品質問題が山積していました。
- リーダー層の業務知識レベルは親会社に比べて低く、既存の仕組みや制度も形骸化しており、経営戦略を推進する有効な機能は果たしていませんでした。
まさに組織が瓦解寸前とも言える状況で、「今いる社員の力を最大限に活かす」という視点から、徹底的な組織改革が始まりました。
「全員野球」への転換:対話と見える化が組織を変える
A社がこの困難な状況を乗り越えるために取り組んだのは、まさに「全員野球」を可能にするための泥臭いながらも本質的な施策です。
- 徹底的な「対話」:
特に、社長が、リーダー層との対話を重点的に行いました。
社員一人ひとりと向き合い、彼らの声に耳を傾けることから始めました。
社員の声を否定せず、受け止め、すべてを「改革のための貴重な意見」として社長は丁寧に拾い上げました。 - ビジョン・ミッションの共有と浸透:
A社の新しいビジョンとミッションを、ただ伝えるだけでなく、社員が「自分ごと」として捉え、具体的なイメージを持てるように、B社の翻訳版を創り、それが腹落ちできるように、「車座ミーティング」を何度も開催しました。
社員からの質問を歓迎し、全員で「自分たちの未来」を語り合う場を設けたのです。 - 「結果」より「プロセス」を評価する文化へ:
これまでの評価制度を見直し、単なる結果だけでなく、頑張った人、努力した人が認められる仕組みを導入しました。
これにより、社員は安心して挑戦できるようになり、失敗を恐れずに前向きに取り組む姿勢が育まれました。 - 「現場の声」に経営が敏感になる:
「社員の声」に耳を傾けるための仕組みも整えました。
現場からの声を、「面倒なもの」「単なるグチ」と捉えるのではなく、「改善の種」と捉え、経営がその声を歓迎していることを伝え、社員に理解してもらいました。 - 「ネガティブ」を「ポジティブ」に変換:
「事故不具合をなくそう!」というような、ネガティブなスローガンではなく、「自分たちが幸せでいるために、〇〇をしよう!」というように、目的を見つめ直し、社員が自律的に行動したくなるような前向きな視点を提示しました。 - 「役割」の徹底的な見える化:
部署ごと、チームごとの役割を明確にし、それが会社全体にどのように貢献しているかを「見える化」しました。
さらに、チーム内での個人の役割も明確にし、「誰一人として無駄な人間はいない」「自分が何に貢献し、誰に助けてもらっているか」が分かるようにしました。
これにより、当事者意識と相互理解が深まり、社員一人ひとりが「自分もチームの一員として貢献している」という実感を持てるようになりました。 - 「行動」と「取り組みスタンス」の承認:
小さな行動や前向きな取り組み姿勢を徹底的に認め、奨励しました。
これにより、社員は積極的に行動するようになり、組織全体のエネルギーが高まりました。 - 「学び」を組織の血肉に:
不足していた基本的な知識やスキルを補うための勉強会は、外部講師に頼るのではなく、社内の社員同士がお互いに教え合う形で展開されました。
これにより、知識の定着だけでなく、社内のコミュニケーション活性化や助け合いの文化醸成にも繋がりました。
1年後の奇跡:親会社がA社に学ぶ存在へ
こうした地道で、しかし本質的な取り組みを続けた結果、わずか1年後、A社に劇的な変化が訪れました。
なんと、事故や不具合がゼロに!
そして、驚くべきことに、親会社B社のマネージャーたちが、A社の組織運営や社員の活気ある働き方から学びを得ようと視察に来るまでになったのです。
これは、M&Aによる逆境の中、即戦力に頼るだけでなく、「今いる社員の力を信じ、引き出し、全員で成果を出す」という「全員野球」の考え方を、社長が信じ、徹底したからこそ実現できたV字回復事例です。
あなたの会社も、今いる社員の潜在能力を最大限に引き出し、「全員野球」でこの混迷の時代を生き抜く総力戦組織を目指してみませんか?
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