経営課題の解決と経営目標の達成に向けて、組織開発を通じて経営者を支援する立場として、私は、その進め方を問い直す必要があると考えています。
VUCAの時代と言われてから、目まぐるしく経営環境が変わり続ける中、企業価値を高め続けるためには、企業には迅速な判断と行動が求められています。
その行動をより確かなものにするために、組織開発は手段として存在します。
しかし、組織開発の提案に接する中で、対話や関係性、ありたい姿の共有を先行させる進め方に出会います。
もちろん、それらは大切な事です。
しかし、「まずそこから整える」ことが、いつも最適な順序なのでしょうか。
権限や意思決定、仕事の進め方にも早期から働きかけ、実践を通じて組織への理解を深めていく必要があるかもしれません。
そもそもミドルマネジメントのマネジメントノウハウが足りず、メンバー育成を促進することが最優先課題かもしれません。
土台を整えている間にも、経営環境はめまぐるしく変わっていきます。
だからこそ、土台という風土をまず整え、それから手段を効果的に回すという順序を大切にするのではなく、介入ポイントや順序を柔軟に取り扱い、実践と検証を短い周期で繰り返すアジャイル型が必要だと考えます。
これは、私も含めた組織開発を支援する側すべてに向けている問いかけです。
経営は、人と組織への投資の意味を問われている
上場企業は、業績や資本効率、将来の成長可能性について、投資家から説明を求められています。
人的資本についても、経営戦略と人材戦略のつながりや、人への投資がどのような価値につながるかが問われています。
株式市場において、上場維持基準の経過措置は終了し、本来の基準が適用されるようになりました。
さらに、本年10月に初回の定期入れ替えが予定される新TOPIXでは、流動性等を基準とした銘柄の選定が行なわれます。
継続採用されない銘柄のウエイトは段階的に引き下げられ、市場からの評価が企業経営に与える影響を、これまで以上に意識する必要があります。
組織開発に多額の資金を投資する以上、当然、その投資対効果を考えないわけはありません。
この投資は、わが社の経営課題、経営目標達成のどこに貢献するのか。
その回収はいつ頃なのか。
経営であれば、これを考えて当然でしょう。
非上場企業にとっても、投資対効果は切実な問題です。
限られた資金や人員をどこに投入するか。
その判断には、目の前の業績への貢献と、将来の成長を支える価値の両方が求められます。
風土が変わるのはすぐにはうまくいかない。
じっくりと腰を据えて取り組むことが大切です。
それはそうかもしれませんが、その間に経営が傾いてしまったら元も子もありません。
経営も、風土や文化を整えることは必須だと理解しています。
一方、業績に直結する目の前の経営課題や成長戦略に繋がる取り組みを加速させたい。
この二つを可能であれば同時に走らせ、シナジーを得たい。
そう考えるのではないでしょうか。
組織開発の取組は、人事には受け入れられても、経営は渋る。
それは、エージェントの提案が経営課題や経営目標の達成のために、具体的にどう貢献するかが経営には見えないからではないでしょうか。
言い換えれば、ODエージェント側にその意図はなくとも、経営には「組織開発をする」提案に見えてしまい、それが主目的に感じてしまうのかもしれません。
組織開発は、あくまでも、経営課題の解決や経営目標達成に繋がる手段として設計されなければいけません。
そう考えたとき、「風土先行」でとりくむこと、「必要だからじっくり時間をかけること」が必ずしも正ではないと、私は考えるのです。
風土、関係性、仕組みをつなげて考える
信頼関係や心理的安全性がなければ、問題が表に出ず、必要な対話も起こりにくいです。
共通の目指す姿がなければ、判断や行動の方向もそろいにくいでしょう。
一方、話しやすい関係になっても、決める権限がなければ行動できません。
目指す姿に共感しても、部門を越えて動く役割や時間がなければ、実践は止まります。
組織開発と風土改革は重なりますが、同じではありません。
風土や関係性とともに、意思決定、権限配分、業務プロセス、評価の運用などにも目を向ける必要があります。
組織文化の説明では、氷山の比喩がよく使われます。
見える行動や仕組みの背後には、暗黙のルールや価値観、当たり前とされる認識がある。
水面下を理解することは重要だというものです。
しかし、深層、水面直下、水上は密接につながっています。
深層の認識が行動を左右するだけでなく、日々の仕組みや行動の結果が、その認識を強めたり変えたりします。
だからこそ、水面下の理解を深めながら、水上の仕組みにも必要に応じて働きかける。
その進め方や順序を、状況に応じて選ぶことが重要なのです。
実際、2010年に経営破綻したJALの再建では、JALフィロソフィを通じた意識・文化の変革と、アメーバ経営をベースとした部門別採算制度の導入が進められました。
企業再建には、風土が整うまで、経営上必要な変更を待つことはできません。
だからと言って、「やれ!」ではうまくまわらないし、何も変わらない小手先の着せ替えにしかならない。
仕組みと文化の両面から経営課題達成に向けて取り組んでいく。
まさにこれこそが、今のビジネス環境下に求められるスタンダードなのではと考えます。
挑戦しない組織に、どこから働きかけるか
「社員が挑戦しない」という課題を例に考えてみます。
以下は、説明のための仮想例です。
社員には「失敗すると評価が下がる」「提案しても上司が決める」という感覚がある。
実際に、小さな改善にも複数の承認が必要で、試す時間や予算もない。
このとき、挑戦する意義や、安心して意見を交わせる関係を育むことには価値があります。
しかし、行動を止めている権限や承認の仕組みも、そのままにはできません。
一つの業務に限って判断権限を委譲し、使える予算と判断基準を決めてみる。
同時に、上司と部下が期待や不安を話し合い、実践を振り返る場を設ける。
すると、上司が途中で判断を取り戻しているのか、他部門の承認で止まっているのか、それとも経験や情報が不足しているのかが見えてきます。
小さな成功が生まれれば、「自分で判断してよい」「挑戦を応援してもらえる」という認識も育つかもしれません。
反対に、任せ方への不安が強まれば、支援や判断基準を見直す必要があります。
「失敗すると評価が下がる」「上司が決めてくれた方が責任取らずに済む」などの深層。
「挑戦する意味がわからない」という水面下。
「権限・意思決定などの判断基準」という水上。
順番を固定せず、必要に応じて働きかけ、それぞれの変化を連携させていく。
これが私の考えるアジャイル型。
これを私は大切にしたいのです。
私が考えるアジャイル型組織開発
私が考えるアジャイル型組織開発は、現時点の情報から仮説を置き、検証できる規模で働きかけ、その結果から見立てと打ち手を更新する進め方です。
まず、解決したい経営課題や実現したい成果を共有する。
その成果を阻む要因を探り、どこに働きかければ変化が動き始めるかを考えます。
関係性や意識への介入も、権限・意思決定・業務の仕組みへの介入も選択肢に含め、必要に応じて同時並行、あるいは順番に進めます。
これは、乱れ打ちではありません。
何を確かめるために試すのか、誰が判断するのか、いつ結果を確認するのかを明確にします。
影響が大きく、戻しにくい変更は、より慎重に検討します。
先ほどの権限委譲なら、一定期間後に、承認待ちの時間、改善の実行状況、判断の質、上司と部下の負荷を確認する。効果があれば広げ、想定と違えば原因を探り直す。
診断が完成するまで待つのではなく、実践からも診断する。ありたい姿も、初期に方向を共有したうえで、実践から得た理解によって具体化していく。
何を試すかだけでなく、介入する場所、順序、強度も更新できること。
ここに、アジャイルの意味があります。
時間をかけることへの説明責任
組織の変化には時間が必要です。
すべてを短期間で変えられるとは、私も考えていません。
それでも、「時間が必要」という説明だけでは、顧客の投資に応えたことにはなりません。
関係性を育むことで、どの仕事が前進するのか。
目指す姿を共有することで、どの判断が変わるのか。
初年度に何を実現し、その先の成果へどうつなげるのか。
対話や意識の変化を捉えるとともに、意思決定の速度、部門横断案件の進展、人材の定着・育成など、経営課題に対応する変化も確かめる必要があります。
すべてをすぐに金額へ換算できなくても、継続するか、変更するかを判断する材料は示せます。
顧客が負担するのは、PLに計上される支援費用だけではありません。
社員や経営者が活動に使う時間、そして着手を待つ間に失う事業機会も、見えないコストとして、投資の判断に含める必要があります。
丁寧に診断している間にも、事業条件は変わり、人は入れ替わります。
診断の対象だった組織も、解決すべき課題も変わっていくのです。
土台づくりに1年、さらにもう1年。
その時間配分を選ぶなら、なぜ必要なのか、その間に何を変えるのかを説明する責任が、支援者にはあるのではないでしょうか。
支援者側も、自分達の「当たり前」を更新し続ける必要がある
組織開発を支援する私たちは、顧客に「これまでの当たり前を問い直しましょう」と働きかけます。
同じように、私たち支援側も、自分たちに同じ問いを向ける必要があります。
まず関係性から。まずありたい姿から。
その順序は、目の前の企業にとって本当に必要なのか。
別の場所から働きかけるほうが、必要な変化を早く生む可能性はないのか。
信念を持つことと、その信念に基づく方法を更新することは、両立できます。
支援の結果が想定と違えば、自分の見立ても進め方も問い直す。
その姿勢を持ちたいと考えています。
時代が変わったのであれば、組織開発の進め方も変えるべきです。
その進め方は、今の経営に応えられているか。
自分達の「正論」を顧客に押し付けるだけになっていないか。
この問いを持ち続けながら、実践と検証を通じて、企業が必要とする変化を生み出していく。
それこそが、私たちの使命であり、喜びなのです。
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