Aさんは、「私はチームで良く思われていないから、誰も協力してくれないと思います。」と言います。
Bさんは、「みんな、自分の事しか考えていないんです。こんなまとまりのないチームに所属していて、やる気が下がる一方です。」と言います。
Cさんは、「みんな、それぞれ自立していてお互いに過干渉になることもなく、私にとっては快適なチームです。」と言います。
AさんとBさんとCさんは、同じチームに所属しています。
ところが、言っていることは様々です。
これ、経験が物語を創っているからです。
3人いれば3通りの経験があり、同じものは一つとして存在しません。
ここで言う経験とは、見たり聞いたりした事実、その事実に対して考えたコト、感じたコト、欲したコトなど全てを網羅したものを経験と言います。
個人の考えや気持ち・感覚、欲求などが含まれるため、10人いれば10通りの、100人いれば100通りの全く異なる経験が存在するのです。
つまり、起きた事実はたった一つでも、そこから生まれる経験は人の数だけあるというわけです。
この「経験」が実は曲者なのです。
考えたり・感じたりしたことがいつの間にか事実を自分の都合のよいように捉え、それがその人にとっての「真実」となってしまうからです。
Aさんがチームで良く思われていないというのは、たまたまある日、Aさんの言動に不適切な点があったため、それをCさんが指摘した。そこには何の含みもなかったのですが、Cさんの声のトーンが低く重いということもあり、Aさんは「Cさんは自分のことを嫌いなんだ」と考えたのでした。
Bさんがとても忙しい時、AさんとCさんにヘルプを依頼したのですが、Aさんは自分の急ぎの仕事があり、Cさんも妻が病気のため子どものお迎えがあり、二人ともBさんを手伝うことができなかった。二人ともその理由を詳しくBさんに説明しなかったこともあり、Bさんはみんな自分勝手だと感じ、どんどんやる気が失せていったのです。
Cさんはもともとが独立心旺盛で、できれば一人で気ままに仕事を進めたいタイプです。自分は嫌われていると思っているAさんと、みんな勝手だと思っているBさんは、チームメンバーと雑談をすることも減り、仕事の話でさえも敬遠しがちになっていました。しかし、そんな理由はつゆ知らず、自分が縛られずにのびのび仕事ができるとCさんは感じており、そんなチームは良いチームだと思っているのです。
こんな風に、経験は自分勝手な物語を創ってしまい、そのせいで周囲に悪影響を与えることもしばしばです。(もちろん、良い影響もあるでしょうが)
この経験が物語を勝手に紡いでいく、その悪影響を避けるにはどうすれば良いか。
それには、その経験の構成要素である「事実」「考え」「感情・気持ち」「欲求」にしっかりと分類し、自分が真実だと思い込んでいるその経験から「事実」だけを抽出しなおし、改めて冷静に物事を見つめ直すことです。
振り返ってみれば、私自身、この経験が創った勝手な物語のおかげで、他人が創った物語のとばっちりを受けたり、自分が創った物語で勝手に空回りしたりと、色々あったように思います。
事実は真実ではありません。
真実は勝手に創られた物語であり、自分勝手に意味づけして創り上げた自分の経験でしかないのです。
だから経験に振り回されるのではなく、「事実」をしっかりと抜き出して、物事の判断を間違えないようにしましょう。
経験が物語を創るのです。
その物語が事実とはかけ離れてしまっているかもしれないということを常に忘れずにいたいものです。