昨年から企業の長時間労働における問題がしばしば報道されています。過重労働によりうつ、自殺などの問題が起こり云々。働き改革を目指し、企業の長時間労働をなくさなくてはならない等々。
確かに、長時間労働は心身に負担がかかり、様々な問題を引き起こす一因になります。しかし、昨今報道されている様々な問題の根本的要因なのかと問われると、疑問を抱かざるを得ません。
私もかつて大手企業で働いていた頃、今だから言えますが、終電で帰り始発前にタクシーで出勤(しかもタクシー代は自腹)なんてことが度々ありました。月間残業時間は労使協定のそれを大きく超え、残業を付けないことは常態化、それでもどうしようもなく、自宅は完全にsmall officeと化し、真夜中に自宅でメールやFAX送信なども普通にありました。
だから我慢しろ、今の若者は弱すぎるというのではありません。肝心なのは、こういう働き方をしていた私のメンタル状態がどうだったかということです。
少なくとも、毎日死にたいと思った、苦痛から逃れたい、孤独だ・・・ などの気持ちはありませんでした。当時の私にあったのは、何とかチームに貢献したい、リーダーの力になりたい、お客様に喜んでいただきたい、などの想いでした。そして何より、そんな状況を周囲は理解してくれており、声がけ、励まし、気遣い、いたわりなど、上司や先輩たちの気持ちを感じることができていたように思います。
そう、確かに異常な労働実態ではありましたが、精神的に孤独ではなかったということです。
うつや自殺など、労働問題が取りざたされるとき、目につきやすい労働時間の多さや違法性のみに焦点が当たりがちですが、本当に大切なところ、メスを入れなければいけないところはそこではないように思います。
仮に過重労働が起こっていたとして、周囲は、上司はそれを知っているのか、どのような対応をしているのか、チームのメンバーは、雰囲気は、等々、物理的問題のみならず、人が働く上で大切なソフト面がどのくらい充実しているのか、目に見えない測定しづらい部分ではありますが、そこにフォーカスしない限り、長時間労働がなくなったとしても職場での問題は決してなくならないと思うのです。
物理的に困難な状態に置かれているとき、その物理的・精神的状態を理解してくれている上司、仲間はいるのか?
何でも吐き出すことができる上司、仲間はいるのか?
目の前の困難を取り払うよう共に考えてくれる上司、仲間はいるのか?
現状の労をねぎらってくれる上司、仲間はいるのか? などなど。
組織で働くということはチームで働くということ。名ばかりのチームではなく、そこに存在する一人一人の関係性が大きく影響するのではないでしょうか。
ちなみにかつて私は、自律神経失調症になりメンタルバランスを多少崩したときがありました。(大事には至りませんでしたが)その時の労働状態は、ほぼ定時に帰社し、土日はしっかりと休みが取れている環境でした。しかし、十数人のチームにあって、とても孤独だったことを覚えています。
企業が健康経営を考えるとき、その物理的問題のみに目を向けるのではなく、ソフト面をいかにケアするか、そのために「働きがいのある朗働環境を創ることができるリーダー・マネージャーの育成」が重要なのではないでしょうか。
人は機械ではない、心のある生き物なのですから。