かつての大きな失敗談です。
少し内気な総務のKさんが半べそかきながら私のところへ来て言いました。
「私、もうAさんと仕事するの嫌です。Y社の契約書の件で、本当は営業のAさんがやるべき仕事のなのに私に丸投げして。それでもAさんが大変だろうと思うから私もやっているのに、遅いとか、まだできないとか、足引っ張るのかとか、ひどすぎます。」
そう言って、KさんはAさんとの過去の経緯も含めて、Aさんと仕事をするのがいかに苦痛かを私に訴えました。
私から見て、Kさんは決して仕事が早いタイプではありませんが、責任感が強く、丁寧に仕事を仕上げていくので、期日さえしっかりと前もって確認できていれば、安心して仕事を頼めるメンバーでした。
一方、Aさんはチームの稼ぎ頭。自分のペースでどんどん仕事を進めていき、その流れを崩されるのが何よりも嫌い。また、どちらかというと協調性があるようには、当時、感じられませんでした。
私はAさんが会社に戻ってくると彼女のデスクへ行き、Kさんが困っていることを伝えました。
すると、Aさんは物凄く反発し、大きな声で私を罵ると部屋から出て行ってしまいました。
扱いづらい子だな!全く!!!
未熟の塊だった私はそう思い、Aさんに対してネガティブな感情を抱いてしまったのですが、すぐに反省することになったのです。
それは、私のAさんに対する接し方に問題があったからと気が付いたからです。
Aさんから事情を聞いているつもりだったのですが、客観的に見て、私はKさんサイドに立った話し方をしていたようなのです。ですから、言葉はAさんについて丁寧に質問していても、言外の意味として、Aさんを批判していたようなのです。
あ~~~ やってしまった・・・
10年ほど前の大河ドラマ「篤姫」の中で、こんな場面がありました。宮崎あおいさん演じる篤姫が、まだ島津家の養女となる前、樋口可南子さん演じる母から言われる言葉です。
これから多くの家臣の上に立つ者として、「一方を聞いて沙汰するな」と。
とても心に留めていたはずなのに、私はAさんに対して、実質的にはKさんの話の話だけ聞いてジャッジしてしまったのです。
何と、愚かな・・・
どうしても私たちは日ごろ、相手をどう思っているか、相手に対してどう感じているかがベースにあるため、何かの判断をしなければならない時、そのベース感情に左右されてしまうことがあります。
でもそれは、判断を誤る要因であり、決してあってはならないのです。
AさんとBさんが揉めている。互いの言い分をまずは何の感情も持たずに聞いてみる。
営業と技術が反目している。公平な立場で双方の言い分をしっかりと聞いてみる。
間違っても、Aさんはこういう人だから、営業はこういう体質だから、などの固定観念を抱いて接してしまうと、せっかく聞いた内容も歪んだ解釈になってしまうかもしれません。
ですから、常に公平な真っ新な気持ちで話を真摯に聞いてみることが大切なのです。
私がバイブルとする佐藤一斎の「重職心得箇条」第6条にも次のようにあります。
「公平を失ふては、善き事も行はれず。凡そ物事の内に入ては、大体の中すみ見へず。姑(しばら)く引き除(の)きて、活眼にて惣体の体面を視て中を取るべし。」
常に公平に、活眼を開き、接したいものです。
ちなみに猛反発したAさん。災い転じて福となす?
彼女から色々と教えられ、今では私が最も信頼し尊敬する、そして可愛い(という表現が適しているかは分かりませんが)後輩になりました。
一方を聞いて沙汰するな
忘れずに心掛けたいと思います。