ベテランの先輩Kさんは、多忙を極めながら頑張って実績を上げているMさんにいつもこんな風に声をかけます。
「できることは手伝うから。」
「仕事振ってね。」
「指示してね。」
Mさんは「ありがとうございます」とお礼を言いながらも、心の中は毎回モヤモヤです。
Kさんは手伝ってくれる気があるのはわかるけど、自分から「〇〇やろうか?」とか「△△は引き受けるよ」とは絶対に言わない。言ったことはきっちりやってくれるけどそれ以上ではない。指示待ち部下の典型なんだよね。
おおよそMさんの本音はこんな風でした。
ある時、どうにも自分だけでは仕事の量の限界を感じたMさんはKさんに応援を頼みました。
「〇〇をお願いしたいんですけど。」
Mさんの依頼に快く二つ返事で引き受けてくれたKさんですが、その後のKさんの言葉に絶句してしまいました。
「××の部分はいつもどうしているの? □□については何を使えばいい?」
Mさんにしてみれば、それらも含めてKさんが自分で考えて進めてほしいのに、いつもMさんはどうしているのか、どういう手順で進めているのかなどを事細かく質問してくるKさんにイラっとしてしまい、つい、仲の良い友人Sさんにこぼしてしまいました。
「いちいち聞かないで自分でやってほしいのに。どこまで指示待ちなんだよ・・・」
Sさんは聞くともなくKさんに探りを入れてみました。
するとKさんの答えは次のようなものでした。
「Mさんのやり方があるだろうし、勝手にこっちのやり方で進められるのはイヤだろうなと思って。手伝うのだって、いろいろ口出しされるより、必要な部分を振る方がいいんじゃない?あれ手伝おうか?これ手伝おうか?みたいに色々言われるの、イヤだろうと思ってね。」
Kさんは言い訳でもなんでもなく、本心からそう思っているようでした。
人それぞれ自分のやり方進め方があるのだから、それを横からいちいち割って入るのではなく、相手が求めたものに対して相手のやり方を尊重してサポートするのがベストなのだと。
「そんなの指示待ちさんの勝手な言い訳にすぎないよ!」
腹を立てるMさんに、Sさんはどちらの言い分もわかる気がして言葉に詰まってしまいました。
Kさんは指示待ちなのか? それとも気遣いの人なのか?
確かにKさんはKさんのレベルで気を遣っているのでしょう。
しかし、本来気を遣うというのは、相手の立場に立って物事を考えることであって、こちら側(自分)の視点でモノを見ることではありません。
KさんのwantとMさんのwantは違うのです。
しかしKさんは自分のwantで物事を考え、それをMさんに提供しようとしている。
これでは気遣いとは言い難く、単なる自分中心としか言えません。
折角、仲間を思いやる気持ちがあるのにとても残念なことですね。
一方、Mさんにも問題がないわけではありません。
Kさんがそのような傾向にあることが分かっているのであれば、最初から仕事の頼み方を工夫すればいいのです。
「〇〇についてはゴールがあっていれば、その途中経過についてはKさんのやり方、判断にお任せしますので自由に進めていただいて構いません。」
という風に、「あなたに任せた!」ということをもっとわかりやすく相手に伝えるのです。
具体的に〇〇を手伝うと自分から申し出るのは相手にとって迷惑だと思っているKさんですから、「Kさんにお手伝い頂けるのは何があるか、Kさんから候補をあげてもらえますか?」と指示待ちにならないようにKさんに選択肢を上げてもらうなども方法です。
指示待ちだ、気が利かないと文句を言っていても何も良い事はありません。
そうだと感じたのであれば、相手がそうならないような関わり方を工夫すれば良いだけのことです。
ちなみに若手メンバーがやる気がないわけではないけれども指示待ちで困るというご相談をよくいただきます。
この場合にはKさんとは違って、「やることがわかっていない」「次の一歩が思いつかない」「指示されることが当たり前になってしまい思考停止状態に陥っている」などの理由が考えられます。
結果行動は同じでも、それを引き起こしている要因は違うかもしれないということです。
指示待ちなのか、気遣いなのか、それとも実は分かっていないのか
しっかり相手を見極めて、こちら側の行動をコントロールしたいですね。