業種も業態も異なる全く別の企業様から同じようなご相談を受けました。
いずれもご近所からのクレームについてなのですが、それが全く理不尽で対応する社員はみなプッツンしてしまい、ついには対応するのがその部署の責任者しかいなくなり、しかしその責任者さんさえもプッツンしそうなご近所さんの理不尽さにどうしたものか困っているという内容です。
ご近所さんとは、その企業が立地している周辺にお住いの個人の方のようです。
「この地でビジネスをさせていただいているという地域や住民の皆さんへの感謝の気持ちをご理解いただくのは本当に難しいですね。地域の一員としてより良い貢献をしようと頑張っているのに、訳の分からないご不満やお叱りを頂くのは残念ですね。」
私がこう言うと、お二方とも口をつぐんでしまいました。
お一人は「『税金たくさん払ってこの地を支えている』という自負はすごくあるけど、感謝の気持ちはなかったかもしれない」と本音を吐露されました。
別の方は「うちは支店なので、転勤で2-3年しかみんないないし、この地域の一員みたいな意識は全くなくって、そもそもそういう考え方をしたことがなかったです。」と仰いました。
お客様だと思うからクレームにも真摯に耳を傾け、改善に努めていこうと思うけど、お客様でもなんでもない近所の方からのクレームは単なる言いがかりに感じていたというのです。
なるほど。責任者の方がそう考えていたのなら、スタッフの皆さんも同様で、ご近所さんからのクレームを理不尽だと感じたのも頷ける話です。
その内容が理不尽かどうかは別として、何か声が上がるということは、小さなことかもしれませんが言う側には言う側なりの言い分があるということです。
言われる側からすると理不尽と感じることもあるかもしれませんが、まずはフラットな気持ちで相手の立場に立って素直に耳を傾けてみることが必要です。
かつて私が受けたクレームで最も理不尽だと感じたのは、海外人気俳優のファンイベントの仕事で、イベントチケットの抽選に外れた女性の方からでした。
「どうして自分は落選したのか」から始まり、「あなたが〇〇さん(俳優さんのこと)の傍にいること自体が許せない!ズルイ!仕事だからって、ファンでもないあなたがそばにいて、こんなに大好きな私がいられないのはおかしい!」というものでした。
最初にクレームの電話を受けたスタッフが対応にギブアップして、私のところに電話が回ってきたのです。
ご近所からの理不尽な(?)クレームにお困りのお二方は、
「え~?そんな言いがかり。理不尽この上ない!どうしたんですか?」
と興味津々でした。
「ええ。1時間半くらいだったかなぁ。とにかく向こうの話を聴きましたよ。周囲のみんなが『まだやってるの?』と呆れるくらいに、ずぅっと。」
「だって、その人、変でしょ!!!」
「まあ、言いがかりですけど、抽選に外れて悔しかったんでしょうね。それに、その人はそのアーティストの大ファンなわけで、そういうファンあっての俳優さんですからアーティストさんから見たら大切なお客様。アーティストさん事務所は私の大切なお客様ですから、そのクレームの方も結局は私にとっても大切な方ですよね。」
「で、どうなったんですか?」
「1時間半も話してたら流石に言うことなくなったみたいで、最後は『あなたも大変ね。頑張ってね。』と言ってくれて、お互いに笑って電話切りましたよ。」
別々の場面でこの私の例をお話したのですが、お二人の反応は共通したものでした。
「そっかぁ。そこまで相手の話聞いてない。というか、相手にちゃんと向き合ってなかった。」
「私も電話、ガチャン!とやっちゃったんですけど、ご自宅へ伺って向き合ってきます。」
そう言ってくれたのは最初にご相談くださった方でした。
もう一方も「向き合ってなかった。それよりも、近隣への感謝がなかった。そこが問題や。」と振り返っていらっしゃいました。
世の中には理不尽な言いがかりもたくさんあります。
無視できるものならそうしたい場合はたくさんあります。
けれどもそうすることができないのなら、まずはきちんと向き合うこと、そしてちゃんと話を聴くことが何より大切です。
上手く謝る謝り方とか、そんな小手先の事ではなく、どれくらい真摯に相手に向かって相手の話(言葉)を聴くか。
それが最も大切で、最善の解決方法ではないでしょうか。