日産自動車の内田誠新社長が就任会見で仰っていました。
「反論が許される風土をつくる」「尊重、信頼、透明性を大切に」「社員の意見を尊重し、信頼を得る」「共通の目標を持ってワンチームの風土を醸成する」
テレビで会見の様子を見ながら、「日産の社員の皆さんは、この言葉をどんな思いで受け止めているんだろう」と私は思いました。
かつて、不祥事発覚後の風土再生のお手伝いをさせていただいた企業で、経営トップの方は溢れる思いを現場の皆さんに熱く語っていたのですが、現場責任者の皆さんは冷めた感じで「まず、自分たちが襟を正せよ」と仰っていたのを直接耳にしました。
どういうことなのかと一人の方に質問したところ、
「僕たちは経営を信用してないですから。不祥事を起こした現場は問題ですが、そう仕向けた経営がいる。僕たち、誰だってあの状況に陥っていて不思議じゃない。『君たち現場責任者がまず意識を変えて』とか言う前に、経営が考え方を変えて見せない限り、僕らは信用できないですよ。」
とまるで吐き捨てるかのように、その胸の内を語ってくれたのでした。
その企業と日産が同じだとは言いません。
しかし、その現場責任者の方の仰ることにも頷けます。
ワンチームを作るとか、互いを尊重するとか、より良い企業風土にしていくとか、言葉ではいくらでも言えますが、まず一番最初に必要なのは、「互いの信頼関係」ではないでしょうか。
そして言わせていただくなら、「意見を尊重するから信頼する」のではなく、「信頼しているから意見を言える」のであり、それが例え反論であったとしても、「尊重としてもらえると信頼しているから言える」のだと思います。
だとすれば、経営者が、現場トップが、そこで働く人たちに「信頼」を得るために、まずは自らの襟を正すことが必要です。
それは大きなことでも難しい事でも特別なことでもなく、小さな当たり前の事柄を愚直に取り組んでいく、その姿勢を皆が見て、今度は大丈夫、信頼できると受け入れてもらえた時、初めて生の声、貴重な意見が出てくるのです。
件の企業のお手伝いをしている時、私は恐れ多くもその経営責任者の方に、笑い話半分にこんなことをお伝えしました。
「『〇〇さんは目が笑っていない。だから怖い。』と支店長さんたちが話していました。トップはお辛いですよね。」
するとその方は、私が言いたいことを察知なさったのだと思います。
「まだまだ全然、僕はみんなに受け入れてもらえていないですからね。日常からコツコツやっていきますよ。それが仕事ですから。」
と笑いながら(目は笑っていたと思います)仰ってくださいました。
意見を尊重するから信頼されるのではなく、信頼しているから意見が出てくる。
では、信頼されるためにどうすれば良いのか。
結局は「企業人として」というよりも先に、「人として」どうあるべきかを省みることが必要なのだと思います。