2019年最後のお茶のお稽古。お床のお軸は「歳月不待人」でした。
「今年もこのお軸を掛ける時期になったわね。」
先生のお言葉に「そうですね」と頷く私。
「このお軸を見るといつも思うのよ。
どんな人でもその関係は永遠ではない。
親子でも兄弟でも夫婦でも。必ず別れの時がやって来る。
あちらの世界に旅立つ永遠の別れもあれば、成長しての巣立ち、旅立ちもある。
今年、お見送りした方達のお顔を思い浮かべてお礼を改めて心の中でつぶやいたり、羽ばたいていった人を思ってエールを送ったり。
それは何も肉親だけじゃなくて、友人同士でも師弟の間でも同じ。
必ず別れはやって来るのよね。」
先生のお話を聴きながら、涙ぐんでしまった私。
先日、巣立ちをされたお客様のことを思ったり、天寿を全うして旅立った姉のところのワンコを思ったり、その別れの時を思い出して、また、いつか来るであろう両親や大切な人たちとの別れを思うと、自然と涙が溢れてきたのでした。
「本当にね、諸行無常よね。
けどね、別ればかりじゃない。別れがあればまた、新たな出会いもある。
お弟子さんたちが卒業しても、また尾藤さん達のように新たな出会いがあって、今、こうして互いに時を過ごせている。
永遠に続くのではないけれども、互いに大切な命の時間を共有できている時がある。
だから感謝しなければいけないし、その一瞬一瞬を大切にしなきゃね。」
先生の続く言葉に更に涙が溢れてきて、暫くはお稽古どころではありませんでした。
カチンと来たり、ムッとしたり、でも、永遠に続くわけではないし、縁があってその一瞬を共有している。どんな間柄であっても必ず別れる時が来る。
そんなことを思ったら、ちっちゃなことに腹を立てたりイライラするよりも、もっと別に大切なことがあると思えるのですから不思議なものですね。
「ご主人のお母さまに親孝行するための帰省は大変よね。けど、永遠じゃないんだから、頑張って行っていらっしゃい。お母さま、きっとお喜びになるわよ。感謝するわよ、絶対に。」
年末年始をご主人の実家で過ごすことに憂鬱だとこぼしていた友人に先生は優しくおっしゃいました。
「そうですね。そうします。」
笑顔で答える彼女。
「尾藤さんもね、クライアントさんの卒業を見送るのはお仕事の成果であり誇らしく嬉しい時でもあるけど、寂しくもあるわよね。ずっと応援して見続けていたいという思い。けれどもね、次にあなたを待っている人がいるんだから。それに、そのクライアントさんとのご縁が切れるわけではないしね。きっと、あなたのクライアントさんはあなたに感謝しているし、もちろんご両親も。そんな皆さんに、あなたももちろん、時をご一緒できたことに感謝してね。」
歳月人を待たず
とかく慌ただしい年末に、「時間がないんだよ。急がなきゃ~」と軽々な意味で捉えるのではなく、「人とのご縁、感謝の気持ち、諸行無常」など、もっと色々な深い意味を思い、いつも優しく諭してくださる先生とのご縁に心から感謝したのと同時に、先生とのお別れの時はできるだけ遅く、遅く、遅く、できることなら来ないでほしいと、世の常に抗う気持ちを抱いては一人苦笑いした師走の夜でした。