マネジメント・リーダーシップ

僕は思うんだけどね

沈滞ムード蔓延の職場を何とかしたいと切に願う部長のKさんはマネージャー達を集めて対策ミーティングを開きました。
「何とかしなくっちゃいけない。このままじゃぁいけないんだ。今まで忙しくて、僕も逃げてた部分もあって、こういう話し合い全然していなかったけど、みんなの知恵も借りて、話し合って、何とかしていきたいと思っているんだ。」

K部長の言葉にマネージャー達は下を向いたままです。
「僕は思うんだけどね、やっぱりもっと〇〇をした方がいいと思うんだ。」
そうしてK部長はご自分の意見を語り始めます。
部長が語れば語るほど、マネージャー達が冷めていくのが私には手に取るようにわかりました。

「『想い』を自分の言葉で語ってくださいね。」
と事前にK部長に私からお願いしました。
それを受けてK部長は一生懸命語ってくれたのですが、K部長の口から出たのは「想い」ではなく「意見」でした。
わかりやすく言うならば、「『こんな職場を創っていきたいんだ』という夢、Want、Willを語ってくださいね」と私はお伝えしたつもりだったのですが、部長は「〇〇をもっとした方がいい。△△はやめた方がいい。」という具体的仕事内容に対する指示だったのです。

「僕はこう思うんだけど、みんなはどう思う?」
皆、下を向いたまま何も言いません。
具体的仕事内容なので私には全くわからない事ですが、K部長が話し始めた途端にマネージャー達の表情がこわばり始めたので、これは日常にもある、部長は全く意識していない押し付けパターンなのかもしれないと私は察知しました。

「Kさん、具体的How toはちょっと置いておいて、『こんな職場にしたいんだ~』という、前、私に話をしてくれた、あれをまず皆さんにお話ししていただけますか。」
私がそうお伝えすると、「あ!」と我に返ったようにK部長は今度は『想い』を語り始めました。
「それでね、こんな職場だったら、こんな職場を再生したいと思っているんだけど、みんなはどう思う?」
するとマネージャー達はこれに対しては賛成したり、自分の考えをや想いを言ったり、ポツリポツリとですが話を始めたのです。

ミーティングの最後に、全員で振り返りました。
K部長が最初に「想い」を語るのはマネージャー達が言葉を発する支障にならないのに、「意見(How to)」を最初に語るとマネージャー達が口をつぐんでしまったのはどうしてだと思うか?

「想い」はどこを目指すかというゴール、最終目的だから、ココを目指すんだというゴールを部長が掲げても、それにはあまり抵抗がない。
逆に、それが今までなかったから部長がどうしたいのか全く分からなかったけど、語ってくれてやっと分かったし、部長の考えというか頭の中というか、心の中が見えて分かりやすく、それに対して自分たちも「こんなのだったらいいな」を自然に話せた。
具体的に何をやったらいいとかダメとかというHow toは、まさにやり方の問題、ゴールに対してどうやるかということで、それについて考えを部長だけというわけでなく、リーダーが最初に言うのは、「こうやれ」という指示命令に取れてしまって、場合によっては押し付けに感じたりやる気を失う。反対意見が言える関係性ができていれば問題ないけど、そうじゃなかったり遠慮がちだったりしたら、リーダーが最初に「こう思うんだけど」とHow toについて言ってしまったら、それに対するオブジェクションはなかなか言い辛い。

こんな振り返りの話し合いがなされ、マネージャー達はK部長とのやり取りを通じて、日常の自分たちの言動への振り返りもできたようでした。
「俺とみんなの関係性も、仲悪いわけじゃないけど、絶好調!じゃないっていうことなんだよな。」
そう振り返るK部長の苦笑いにも、マネージャー達は何か感じるものがあったようでした。

「僕はこう思うんだけどね」
リーダーが自分の考えや意見を言うことが悪いのではありません。
どういう関係性の相手に対して、どういうタイミングで言うのが良いのか、それはまさにケースバイケースであり、よくよく考えて口にしないと、良かれと思って発した意見がメンバーの口を閉ざしてしまう負の要因になってしまうという、貴重な学びを得ることができた有意義なミーティングでした。

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