最終的に納品は問題がなかったし、その過程においても大きなトラブルはなかったのですが、私はあるサービスの継続を思いとどまりました。
お若い担当者さんは彼女のレベルで一生懸命頑張ってくれたと思うのですが、それは私のニーズとはだいぶ違いました。
おそらく彼女は私が満足していないことは肌感覚で気がついていると思われます。でも先輩や上司はそのことに全く気づいていないということが分かりました。これは若い担当者さんの責任というよりも、そこに気を配っていない上司や先輩に問題があると私は思います。私が「さようなら」を決めた理由は、若い担当者さんへの不満というよりも、そのフォロー体制にありました。
新人やまだ不慣れな社員をお客様の担当につけるのであれば、お客様にはその旨を予めご理解いただき、お客様へのフォローは先輩や上司が十分すぎるほどに行わなければいけません。
「新入社員ですがよろしくお願いします。」「転職してきたばかりでまだ業界のことを把握しきれていません。」「正式ライセンス取得前の勉強中です」など、上司がしっかりとお客様へ「事実」説明をするのです。それは、新人だから不手際は許して欲しいという甘えではありません。新人であってもあくまでもプロフェッショナルとしての姿勢で仕事に臨むことは当然です。しかし、新人であるという「事実」をしっかりとお知らせする責任がサービスを提供する側にあるのではないかということです。お客様がそのことも承知した上でサービスを受けて、初めてそこに対価が発生するのではないでしょうか。それらを何も説明ないままに事を進めるのは、そもそものスタンスがそういうことなのか・・・ と悲しい思いがするのです。
異業種業界ではトップ営業マンだった人が転職してきた時、私はそのメンバーをお客様に紹介する際、「営業マンとしては〇〇業界でトップ営業だったベテランですが、人材業界においては新人です。どうぞよろしくお願いいたします。」と言っていました。「そういう紹介のされ方は自分のプライドが傷つく」と最初は言われたのですが、すぐに私の考えに理解を示してくれました。それがお客様に対する誠意であり、これから共に頑張っていく彼に対しての私なりの想いだと分かってくれたからです。
どんなにベテランであっても、誰もが最初は「初心者」です。そして、その初心者の相手をして下さるお客様やお取引先がいるものです。
私の行きつけの美容院では「今日のシャンプーは初めての新人が担当させていただきたいのですが、お願いできますでしょうか」と必ず一言あります。こんな時は、「喜んで」練習台を引き受けます。私の上司も「今回初添乗なのですが、どうかよろしくお願いします」と、私が初添乗の時にはお客様に頭を下げてくれたことを思い出します。
その上司は、「新人には上司がよく知っている永年のお客様を担当にする」のがモットーでした。本当のことを新人にも上司にもちゃんと話してくれるし、これまでのしっかりとした信頼関係の積み重ねがあるので、多少の事ではそれが揺るぐことはありません。何より、新人が担当することをお引き受けいただいている時点で、お客様の方にも「この子はウチが育ててあげよう」というお気持ちが芽生えるようです。
私が初めて担当したのは支店の古くからのお客様でしたが、お陰様で、私は仕事の中身以前に「言葉遣い」や「社会人としてのふるまい」「目上の人への接し方」「社長と会う時に気をつける」ことなど、本当に多くの事をそのお客様から時にお小言を頂きながら、また別の時には食事をご馳走になりながら教えていただいたものです。そして、私の見えないところで上司がお客様に対してとてもきめ細かくフォローしていたのを私は知っています。どんなに親しい方でもお客様。その一線のラインを崩すことだけは決してしていませんでした。
もし、あなたのチームのお客様が黙って去って行ったとして、そのお客様の担当が新人や不慣れなメンバーだったとしたら、その時、担当者を責めるのではなく、最初にマネージャーとしての我が身を振り返ってみてください。
メンバーに任せっきりにしていなかったか。メンバーはお客様が求めるコトに対してその対価に十分に応じられる仕事を本当にしていたのか。そのフォローを十二分にチームやマネージャーは行っていたのか。
うまくできない新人にお客様は腹を立てているのではなく、そのフォローがしっかりとできていない組織や上司に対してお客様は残念に感じているのだと思います。
お客様が去って行くとき。それは自らへの戒めだと肝に銘じ、三省しなければいけません。