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親愛なる大先輩

数日前から体調不良を訴えていた父ですが、金曜夕方になっていよいよ具合が悪く、自分はもうダメだ・・・ と言い出しました。

いつもの弱気かと思いましたが、詳しく聞いてみると、そうではないかもしれないと思い、土日の休診を待つのは嫌だし、翌月曜日は私が実家を後に東京へ戻る予定だったので、診療終了時間ギリギリでしたが、かかりつけの総合病院へ電話をして、今から診てもらいたい旨のお願いをしてみました。

 

電話は代表に繋がり、係りの中年と思われる女性が色々と症状や事実関係を詳しく質問します。父に電話を代わり、自分で説明するように言いましたが、女性は詰問口調でイライラしている感じが明らかでした。電話口ではうまく説明できずに口ごもる父。受話器を持つ手は震えていました。

これ以上、父に説明させるのは酷だと思い、電話を代わり、私は2-3日しか様子を見ていないがとにかく具合が悪くて、時間ギリギリで本当に申し訳ないのだけれども診てもらいたいとお願いしました。

女性は一切の感情を交えず、規則だから聞くべきことは聞かないと先生に繋げないと言ったのですが、私の懇願に根負けしたのか、ようやく救急で診てもらえることになりました。

 

振り返ると電話対応で憔悴しきった父。子供の頃から強くて優しくて立派だった自慢の父でしたが、そこには、すっかり自信を無くして小さくなった父がいました。

 

「ごめん・・・」ポツリと私に言う父に、私は泣きそうになりながら言いました。

「怒らないでお願いする練習ができて良かったよ。ありがとうね。病院行こう。」

 

車で病院へ向かう途中、着いてから、検査から診察まで、父が自分でできると思われることは極力手助けせず、自分でやってもらいました。

父の「プライド」を保ってあげたかったのです。

小さくとも一国一城の主として会社を経営し、一家の大黒柱としてかなりのワンマン夫だった父が、できないことが増え、家族の負担になっているという思いはそれだけで、かなりの苦痛なのだと容易に想像がつきます。

ですから、できるだけ父のプライドを保つことができる事を考え、やってもらい、また、私も言葉をかけるように気をつけました。

歳を取りできないことが増えてしまった父ですが、父のお陰で今の私がいるのですから、人としての尊厳を保つべく、今、現役である私が尊敬の念をもって接するのは当然の事と考えます。

 

組織においても若手の台頭やICTの進化により、年長者がそれについていけない、定年後の再雇用など、様々な環境下において、それまで頑張って組織を支えてきた人たちを今は戦力ではないお荷物とばかりに軽視してしまう場合があります。

経営という観点で考えた場合、全盛期と同じ給与を払えるかどうか、ポジションをどうするかなどの問題はあります。

しかし少なくとも、その方達がいたから今の組織があることは歴然たる事実であるにも関わらず、そんなことは全くなかったかのように、かつての功労者を無下に扱い、用無しとしてしまうことには疑問を感じずにはいられません。

どんな形であれ、その方達のプライドを傷つけるような、人としての尊厳を奪うような言動をしてはならないと思うのです。

 

年老いた父と接することで、今も組織で頑張ろうともがいている大先輩の皆さんへどう対応するべきかを深く考えさせられたのでした。

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