『ANAのVIP担当者に代々伝わる言いにくいことを言わずに相手を動かす魔法の伝え方』という書籍があります。発行された時にネット広告か何かでタイトルを見て、興味があり購入して読んでみました。感想は「ふ~ん。当たり前のことしか書いてないな・・・」と言うものでした。
かつて旅行会社で添乗員業務も行っていましたが、華やか(そう)に見えるCAさんと異なり、TC(添乗員 Tour Conductor)は実に泥臭く、そのベースにはCAさんに対する偏見やひがみがあったのではと思います。「士農工商穢多非人添乗員」などと自分たちを自虐的に言うこともあり、ハイヤーでの送迎が当たり前の(今は違いますが)CAさん達には潜在意識で嫉妬していたのです。
「所詮は空の上での限られた時間のことだけ。何日間もお客様と寝食を共にして過ごす私たちTCの気遣いや苦労に比べたら、CAなんて大したことない。」こんな考えがベースにあったので、この本に書かれている「大切なこと」が私には全く響かなかったのです。本当に、かつての私は「嫌なヤツ」でした。
時を経て、ご著者の加藤アカネさんとある勉強会で仲良くさせていただくようになり、その素敵なお人柄に惹かれたこともあり、もう一度あの「ANAのVIP担当者に~」を読んでみることにしました。過去に読んだ本をもう一度読むのは、私としてはとても珍しいことなのですが、なぜか読みたい気持ちになったのです。
今度は色々な事がどんどんと心の中に入ってきました。「何のために仕事をしているのか」「マネージャーの役割」「お客様やお相手を大切に思う心」など、書籍に書かれた事柄を通じて自分の場合に置き換えて深い内省が起こりました。日々、私が研修やワークショップでお伝えしているのと同様の考え方もありますし、「そういう捉え方もあるのか」と新鮮な部分もありました。巻末の「チボリ公園の女の子」のエピソードは読みながら号泣してしまいました。確か、以前読んだ時には、「サウスウエスト空港にはこんな例は山ほどあるけど」と冷ややかに捉えていたように思います。こんなに素敵な本だったのか。一気に読み終えて素直にそう思いました。それと同時に、以前とは全く異なる所感を持った自分自身に笑ってしまいました。
「私って、本当に汚れていたんだわ」
美容の基本は洗顔からと言われます。どんなに高級で効果があるといわれる化粧品を使っても、肌そのものが汚れて毛穴が詰まっていては、その美容成分は肌に浸透することはなく何の意味も持たない。だから何よりも洗顔が大切だということです。
お部屋のお掃除だって同じですね。高価な家具やインテリアでどんなに飾り立てても、床にゴミが落ちていたり、そこかしこに埃の塊が見えたりすると、美しい部屋とは思えません。高級家具などなくとも綺麗に掃除されて埃1つない清潔でさっぱりとした部屋の方が、埃まみれの部屋よりはるかに居心地が良いものです。
そう考えると、人もまた心が汚れていてはどんなに知識やスキルを身に着け資格を取り、高級ブランドで着飾ろうとも、滑稽なだけで美しくはありません。ただの「仕事はできるけど嫌なヤツ」にすぎないのです。
どんな本を読もうとも、どんな勉強会に参加しようとも、ベースが汚れていては必要なコトは吸収できない。私はまさにその典型だったのかもしれません。
もちろん今は、CAよりもTCの方が大変な仕事で・・・。などという曲がった考え方は持っていません。職業に優劣はなく、その現場現場でそれぞれの苦労があります。CAはじめ、多くの方々の協力がなければTCは成り立たない。その事も十二分に理解しています。頭での表面理解ではなく心の奥底から深く強くそう思っています。だから、入るべき栄養が心の中に染み入ってきたのかと思っています。
美容の基本は洗顔から。人としての基本は洗心から。
心を磨くための工夫は沢山あります。どんな方法でも構いません。
ただ一つ言えることは、汚れは必ず付着するもの。お掃除し続けることが必要です。綺麗になったからこれでもう私は大丈夫! ということはないのです。
毎日歯を磨き、顔を洗い、お風呂で体をきれいに洗うように、心のお洗濯も必要です。決して慢心することなく、常に心を磨き続けることを習慣としたいですね。