「僕はこの仕事を40年以上もやっているけど、そんな話、聞いたことないよ!それはおかしい!!」
すごい剣幕でMさんの言い分を否定するDさんは、この道一筋のエキスパートで誰からも一目置かれるスペシャリストです。
そんなDさんが「おかしい!」と言うのですから、その場にいた多くの人たちはMさんの勘違いか何かだろうと思ったようでした。
しかしMさんは食い下がります。
「でも、僕は確かにソレを確認したんです。40年間なかったかもしれないけど、Dさんは聞いたことないかもしれませんけど、だったら40年目にして初めてのケースなんですよ。今まではなかったかもしれないけど、今はあるんですよ。絶対に!」
全くひるむことなく堂々とした物言いのMさんに、Dさんは少し考えたようでした。
「これまではなかったけど、今はある・・・」
Dさんに反論したMさんに、周囲はDさんが激怒するのではとヒヤヒヤものだったようですが、予想に反してDさんは穏やかに言いました。
「そうかもしれないね。」
「え?」
「40年間、俺が知らなかっただけかもしれないし、今まではなかったけど新たに起こったことかもしれないし、ようわからんけど、これまでの俺の歴史になかったからと言って、絶対に否定するのは間違ってると、今、分かったよ。Mさんの言うことも一考の価値があるんだな、きっと。」
周囲は波を打ったように静まり返り、皆、Dさんの話を聞いていました。
「これまでの経験値にこだわりすぎてたのかもしれないな。こんなんじゃ、新しい発見とかできるわけないよな。固定概念ガチガチだもんな。反省、反省!」
誰に言うでも自らを戒めるようにそう呟くDさんに、みんな、「やっぱりDさんは凄い人だ!」と思ったようです。
経験や実績があればあるほど、それらが目に見えない幾重にも重なった固定概念となって、気づかぬうちに考えや想いを「今知っているコト」だけでコチコチに固めてしまいます。
昨日の間違いは今日の正解。
今日の正解は明日の間違い。
1年前になかった事も今は普通にある。
今、影も形もないコトでも、近い将来にはそれが当たり前になっている。
そう考えたなら、自分の経験値だけで物事を図ることほど愚かしいことはありません。
それを自ら認め、新たなコトに目を向けようとするDさんは流石です。
誰かが突飛もない事を言ったり訳の分からない説明を始めた時、「あなたはおかしい!」と決めてかかるのではなく、その内容に興味を持って「ふ~ん。へ~。」と耳を傾けて自分なりに咀嚼して考えることができる、そんな柔軟性をいつまでも持ち合わせていたいものだと思います。