「ものづくりの現場をわかっている人にお願いしたいんです。」
「IT企業ならではの葛藤があるんです。」
こうした声をいただくことがある。
制度や仕組みを導入するとき、「正しく」行ったはずなのに、現場の人たちの反応がいまひとつ。
きっと、「自分たちには何かが合わない」という感覚を経験したからこそ、こういう言葉になるのだと感じている。
なぜ、制度は「正しい」のに、うまく機能しないのか。
それは、マネジメントが論理・仕組み・計画などで動く一方で、現場では、経験・勘・感覚・時々の柔軟性などで動いているからだ。
たとえば、SEがシステムの検証を行う時、決まった手順やルールに基づいて行いつつも、使用環境や状態に応じて、暗黙知からなる経験や勘に基づいて確認や判断をするだろう。
その柔軟性や臨機応変さ、感覚値は、もはやArtであり、「お決まり」のやり方よりも、効果的な場合が多い。
技術者にはこだわりがあり、技術者特有の「考え方」があったりもする。
それは、「普通はこうだ」という理屈を超えて、彼らの「特徴」であり、その深い理解なしに、技術者をマネジメントしようとしても、ヤル気を削いだり、こちらの期待とは反する結果になるばかりだ。
マネジメントが合理的、論理的、計画的な特徴を求められる「科学(Science)」だとしたら、現場はさながら、その特徴と暗黙知によって生きる「芸術(Art)」かもしれない。
組織がうまくいかなくなるのは、多くの場合、このArtとScienceのバランスが悪い時だと思う。
私が過去に支援した企業にも、印象的な例がある。
一つは、あるIT企業。
専門家集団と言うことで、評価の仕組みづくりも評価者も、現場に権限移譲していた。
互いを分かり合い、専門家としての技術も向上したが、正しいマネジメントの不在により、本社の戦略とはズレることが多かった。
Artに依りすぎた結果、全体がまとまらなくなったケースだ。
一方で、フルコミッション型の営業組織では、売上目標や行動管理を本社主導で厳しくルール化していた。
営業マンたちの判断力や柔軟性は削がれ、「言われた通りやるが、それ以上はやらない」空気が蔓延していた。
こちらは、Scienceに依りすぎたがゆえに、自律と創造性が失われていた例だ。
いずれの組織も、設計のバランスと、整えられた仕組みのナビゲートが不十分だったため、それらの軌道修正を行った結果、組織は正常に機能するようになった。
マネジメントに必要なのは、ArtかScienceか、どちらかに決めることではない。
重要なのは、自社の「構造」を理解したうえで、どこにArtを効かせ、どこはScienceで締めるのか、そのバランスを設計する力だ。
両輪がかみ合って初めて、「人が自発的に動きながら、成果も出せる組織」になる。
「制度がうまくいかない」と感じたときは、仕組みそのものを疑う前に、その仕組みが“どんな人たち”に向けて設計されたものなのか?
そして、彼らが今、どんな「Art」で動いているのかを見直してみてほしい。
整えすぎれば、動きが止まる。
放っておけば、迷子になる。
マネジメントに求められるのは、「舵取りのうまさ」ではなく、“この組織がどんなバランスで成り立っているのか”を理解していることなのだ。
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