人材市場の流動性が高まり、優秀な人材の獲得競争が激化している現代。
多くの企業が「即戦力」を求め、高い報酬を提示してでも「スター人材」を外部から招き入れようとしています。
しかし、本当にその「スター人材」は、期待通りの成果を出してくれるのでしょうか。
私は現在、人事コンサルタント・企業顧問として、多くの企業の人材戦略に関わっていますが、この問題への関心の原点は、私自身がかつて一般企業の社員として働いていた時代の経験にあります。
以下、実際の事例をもとに、「スター人材採用」の落とし穴について考えていきます。
事例1:大手トップ営業マンはなぜ中小企業で成果を出せなかったのか?
これは、私が在籍していた企業で実際に起きた出来事です。
大手企業でトップ成績を誇っていた営業マネージャーが、中小のコンサルティング会社に「鳴り物入り」で転職してきました。
彼は非常に優秀で、前職での実績は誰もが認めるものでしたから、新たな会社からの期待値も非常に高かったのです。
しかし、結果はわずか3ヶ月での退職。
彼に欠けていたのは、小さな組織で「ゼロから開拓していく」という自律性と創造性でした。
巨大組織において、「型」として確立された仕組みの中で成果を出す力は非常に優れていました。
しかし残念ながら、それらが整っていない組織で、彼の強みを発揮することは難しかったようです。
この出来事を目撃した経験が、その後の私の人材観に大きな影響を与えることになりました。
その後、戦略人事コンサルタント・企業顧問として多くの企業に関わる中で、あの時に見た「スター人材採用の失敗」は、決して特殊なケースではないことを知りました。
むしろ、業種・規模を問わず、驚くほど似たパターンが繰り返されていたのです。
事例2:三顧の礼で迎えたスター部長が、わずか1年で退任した本質的な理由
地方企業が、大手グローバル企業の部長クラス人材を「三顧の礼」で迎え入れるケースです。
グローバル企業で培った経験をフルに活かせる新たなポジションは、地方企業の生き残りを左右する重要なミッションを背負っており、大きな期待が寄せられました。
ところが、わずか1年で彼は退任することになりました。
彼は、自身の「型」や「価値観」を非常に強く持った人でした。
それが前職では「突破力」や「推進力」として評価されたのだと考えます。
しかし、地域に根差し、近隣との関係性を重視する中小企業の価値観とは大きなズレがありました。
表面的なスキルや実績だけでなく、企業のDNAと本質的な価値観が合致するかどうかは、人が組織で活躍できるかどうかに非常に大きな影響を与える重要な問題です。
これは特別な事例ではなく、これまで同様のパターンを幾度となく見てきました。
事例3:大企業間の転職でも起こる「ミスマッチの悲劇」
これは大企業間、あるいはその逆の転職でも同様のことが起こりえます。
複数のクライアント企業から繰り返し聞く話です。
名だたる大手企業から「超優秀なトッププレイヤー」と称され転職してきた人が、鳴かず飛ばずの成績しか納められないケースが枚挙に暇がありません。
「こんな人材をわざわざ採用しなければならないほど、我が社は人材不足なのか?」
社内からは、人事への批判と共に、失望の声が漏れてきます。
このようなケースは、決して珍しくありません。
むしろ、「よくあるパターン」と言えるほど頻繁に起きています。
失敗の共通パターン
これらの事例から見えてくる共通点があります。
【パターン1】前職の「仕組み」を本人の「能力」と誤認する
大企業の営業力や企画力は、個人ではなく組織の力であることが多いのです。
ブランド力、マーケティング予算、既存顧客基盤
これらが揃って初めて発揮される「成果」を、個人の能力と見誤ってしまう場合が多くあります。
【パターン2】「実績」は見るが「適合性」を見ない
採用時、過去の成果は詳細に評価しますが、自社の組織文化や価値観との適合性の評価が極めて甘くなりがちです。
【パターン3】「期待値」が高すぎて、既存社員との軋轢を生む
「高給で来たスター」への周囲の目は、想像以上に厳しいものです。
既存社員の士気低下というコストは、数字には表れません。
採用は恋愛ではなく、結婚です。
一時的な魅力ではなく、長期的な相性を見極める必要があります。
「組織がトッププレイヤーを育てる」という真実
これらの経験を重ねる中で、私はある論文に出会いました。
ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)に掲載された「スター・プレーヤーの中途採用は危険である」
~金融アナリスト1052人への調査が明かす~(by ボリス・グロイスバーグ ,アシシュ・ナンダ ,ニティン・ノーリア、2004年10月号)です。
金融アナリスト1052人への大規模調査の結果は、私が現場で感じていた「直感」が、実は学術的にも裏付けられていることを示していました。
同調査によれば、スターアナリストが転職した場合、そのパフォーマンスは少なくとも5年間は低下し続けるという結果が出ています。
さらに、その間、転職先企業の株価も平均して下落したとのことです。
つまり、HBR記事が指摘する通り、「組織がトッププレイヤーを育てる」のです。
その人材が、「その組織だからこそ」活躍できた、「その組織の仕組みや文化に適合できた」という側面が非常に大きいのです。
前の会社で輝かしい実績を残したからといって、他社で同じように活躍できるとは限りません。
そして、採用時にこの「適合性」や「異なる環境で活躍できる能力」を見極める難しさこそが、スター採用の大きな課題と言えます。
安易な即戦力採用から脱却し、未来の「スター」を育てる組織へ
安易に外部の「スター人材」を中途採用することは、結果として組織内に大きな混乱を招く要因となる可能性があります。
むしろ、「人を育てる」「トッププレイヤーが育つ組織を作る」ことに注力することの方が大切です。
これは確かに時間がかかる取り組みです。
しかし、私がご支援してきた企業の中で、持続的な成長を実現しているのは例外なく、「育成投資」を重視してきた企業です。
3年、5年先を見据え、今、この投資をしなければ、永遠に「ハズレくじ」を引き続けることになりかねません。
目の前の「即戦力」という甘い言葉に惑わされず、自社に真の「スター」を生み出す土壌を育むこと。
これこそが、持続的な成長を実現するための、経営者が今、決断すべき最も確かな投資なのです。
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