人材市場の流動性が高まり、優秀な人材の獲得競争が激化している現代。
多くの企業が「即戦力」を求め、高い報酬を提示してでも「スター人材」を外部から招き入れようとしています。
しかし、本当にその「スター人材」は、期待通りの成果を出してくれるのでしょうか。
ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)に掲載された「スター・プレーヤーの中途採用は危険である」
~金融アナリスト1052人への調査が明かす~
(by ボリス・グロイスバーグ ,アシシュ・ナンダ ,ニティン・ノーリア、2004年10月号)という記事は、
この一般的な常識に一石を投じています。
私もこの記事を読み、長年の経験に照らし合わせた時、
「確かに、そうかもしれない…」と深く頷かざるを得ませんでした。
事例1:大手トップ営業マンはなぜ中小企業で成果を出せなかったのか?
大手企業でトップ成績を誇っていた営業マネージャーが、中小のコンサルティング会社に
「鳴り物入り」で転職してきました。
彼は非常に優秀で、前職での実績は誰もが認めるものでしたから、
新たな会社からの期待値も非常に高かったのです。
しかし、結果はわずか3ヶ月での退職。
彼に欠けていたのは、小さな組織で「ゼロから開拓していく」という自律性と創造性でした。
巨大組織において、「型」として確立された仕組みの中で成果を出す力は非常に優れていました。
しかし残念ながら、それらが整っていない組織で、彼の強みを発揮することは難しかったようです。
事例2:「三顧の礼」で迎えた『スター部長』が、わずか1年で退任した本質的な理由
地方企業が、大手グローバル企業の部長クラス人材を「三顧の礼」で迎え入れたケースがありました。
グローバル企業で培った経験をフルに活かせる新たなポジションは、
地方企業の生き残りを左右する重要なミッションを背負っており、大きな期待が寄せられました。
ところが、わずか1年で彼は退任することになりました。
彼は、自身の「型」や「価値観」を非常に強く持った人でした。
それが前職では「突破力」や「推進力」として評価されたのだと考えます。
しかし、地域に根差し、近隣との関係性を重視する中小企業の価値観とは大きなズレがありました。
表面的なスキルや実績だけでなく、企業のDNAと本質的な価値観が合致するかどうかは、
人が組織で活躍できるかどうかに非常に大きな影響を与える重要な問題です。
事例3:大企業間の転職でも起こる「ミスマッチの悲劇」
これは大企業間、あるいはその逆の転職でも同様のことが起こりえます。
名だたる大手企業から「超優秀なトッププレイヤー」と称され転職してきた人が、
鳴かず飛ばずの成績しか納められないケースが枚挙に暇がありません。
「こんな人材をわざわざ採用しなければならないほど、我が社は人材不足なのか?」
社内からは、人事への批判と共に、失望の声が漏れてきます。
「組織がトッププレイヤーを育てる」という真実
HBR記事が指摘する通り、「組織がトッププレイヤーを育てる」という視点は、
私自身の実践知からも、この理論には頷ける点が多々あります。
つまり、その人材が、「その組織だからこそ」活躍できた、「その組織の仕組みや文化に適合できた」
という側面が非常に大きいのです。
前の会社で輝かしい実績を残したからといって、他社で同じように活躍できるとは限りません。
そして、採用時にこの「適合性」や「異なる環境で活躍できる能力」を見極める難しさこそが、
スター採用の大きな課題と言えます。
安易な即戦力採用から脱却し、未来の「スター」を育てる組織へ
安易に「Love You(熱烈な歓迎)」で外部の「スター人材」を中途採用することは、
結果として組織内に大きな混乱を招く要因となる可能性があります。
むしろ、「人を育てる」「トッププレイヤーが育つ組織を作る」ことに注力することです。
これは確かに時間がかかる取り組みです。
しかし、3年、5年先を見据え、今、この投資をしなければ、
永遠に「ハズレくじ」を引き続けることになりかねません。
目の前の「即戦力」という甘い言葉に惑わされず、
自社に真の「スター」を生み出す土壌を育むこと。
これこそが、持続的な成長を実現するための、私たちにできる最も確かな投資なのです。
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