TOMの初日の講義では、「新規事業マネジメント」についても学んだ。
あらためて、自分自身が実務の中で意識している視点を整理しながら振り返ってみた。
新規事業のマネジメントの要点は、
限られた経営資源の中で、不確実性の高い挑戦を柔軟かつ戦略的に進めながら、
組織全体の協力を引き出し、適切な評価と撤退判断を行うことにある。
具体的には、以下の4点が重要である。
1.資源配分の設計と柔軟性の確保
新規事業に対して、最初に、どれだけの資金を投資するか、
またそれをどう配分していくかを明確に設計していくことが必要である。
進捗に応じて場当たり的に追加投資を繰り返すと、プロジェクトの方向が迷走しやすくなる。
また、社内の他部門からの批判を増幅させる要因にもつながる。
さらに、初期段階で一気に巨額の投資を行うと、方向転換が困難となり、
プロジェクトの柔軟性を欠く結果を招く。
従って、事前に総額の上限と、段階的な配分を計画設定し、
必要に応じて方向転換が可能な戦略設計とすることが望ましい。
特に、破壊的イノベーションを伴う新規事業では、
試行錯誤を前提とした柔軟な対応が不可欠であり、それを支える資源配分の設計がカギを握る。
なお、ここでいう資源とは、「カネ」に限らず、「ヒト」「モノ」「情報」についても同じことが言える。
特に、「ヒト」「モノ」について、既存事業からの融通が前提となる場合は、
次項2にも関わるが、全社の協力や応援が必要であり、
適切な事前設計により、既存事業からの理解と協力を得られるようにしておくことが重要である。
2.既存中核事業との摩擦の最小化と、全社的な巻き込み
新規事業は、多くの場合、既存事業の利益を原資に投資される。
そのため、既存事業部門の社員からは
「自分たちが稼いだ利益が成果の見えない新規事業に浪費されている」
といった不満や疑念が生じやすい。
また、新規事業の携わる社員自身も、
収益が上がり、財務面での社内貢献ができる状態になる以前では、
社内で孤立したり、肩身の狭さを感じたりする可能性がある。
また、新規事業に多くの資源を投じて取り組む場合、
中核事業の社員が会社の方向性や自分たちの存在価値に不安や疑問を感じるなど、
組織内摩擦や不協和音を招く可能性がある。
こうした問題を防ぐためには、
「なぜこの新規事業に取り組むのか」「中長期的にどんな価値をもたらすのか」を、
企業のビジョンや経営戦略と結び付けて、
丁寧に社内に説明し、理解を得ることが重要である。
全社でヒト・モノ・カネ・情報を新規事業に応援できる組織風土の醸成が、
挑戦の成功確率を高める土壌となる。
3.収益化までの時間軸の設計
新規事業が収益を生み出すまでには、想定以上の時間がかかることが多い。
特に、新市場を開拓するような取り組みでは、
市場の立ち上がりに時間を要し、初期段階では明確な成果が見えにくい。
この特性を無視して、既存事業と同様の短期的な売上・利益目標(財務的KPI)を設定すると、
プロジェクトの動きが硬直化し、大きな成長機会を逃すことに繋がる。
したがって、新規事業にはそれに応じた個別のKPIの設計(プロセスの進捗、市場開拓に関する件数等)が
必要である。
また、その進捗に応じて、目標は随時見直し、変更していく柔軟性も必要である。
財務的KPIについては、事業化の見通しが立った時点で、
現実的な売り上げ、収益、投資回収期限を設定するなど、
時間軸を考慮した現実的な見通しに立つ目標設定が重要となる。
4.撤退基準の明確化とチャレンジの評価
新規事業には失敗のリスクが常につきまとうため、
「どの段階で撤退するか」を予め明確にしておくことが重要である。
曖昧なまま進めると、「可能性があるかもしれない」と判断を先送りし、
結果的に中核事業の利益を不必要に圧迫することになりかねない。
加えて、撤退=失敗と捉える風土があると、誰も挑戦したがらなくなる。
プロジェクトが期待通りの成果を出せなかったとしても、
その挑戦自体に対して評価を行い、チャレンジした社員が不利な評価を受けない仕組みを整えることが、
新規事業に取り組む組織の持続可能性を高める。
新規事業マネジメントとは、単なるプロジェクト管理ではなく、
「不確実性とリスクのマネジメント」「組織的支援の獲得」「時間軸への配慮」「撤退と評価のルール化」
といった複合的な要素を含む戦略的営みである。
この4点を抑えることが、新規事業の成功確率を高め、組織全体としての持続的成長にもつながる。
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