企業の現場では「研修をしたのに結果が出ていない」という声がよく上がります。
しかし、その判断は多くの場合「評価軸のズレ」に起因しています。
研修の効果は、どんなプログラムでも即座に数字に表れるわけではありません。
それなのに、短期的な成果を求めすぎることで、本来必要な人材開発が軽視されてしまっている企業は少なくありません。
研修には「即効型」と「応用型」がある
研修とひと言でいっても、性質は大きく異なります。
【① 即効型(知識・スキル習得)】
商品知識、営業メソッド、プレゼンスキルなど、学んだ内容がそのまま実務で使えるタイプです。
ただし「即効型」といっても、必ずしも翌月の売上や指標に直結するわけではありません。
実行力、顧客状況、競合要因など、外部変数が成果を左右するためです。
【② 応用型(マネジメント・リーダーシップ)】
状況判断、対話、動機づけ、チーム運営など、相手や場面によってアプローチを変える必要がある領域です。
知識を覚えた瞬間に成果が出ることはありません。
行動の質が変わり、その変化がチームに波及し、やがて成果に向かう
この流れにはどうしても時間がかかります。
成果が出るまでの「段階」を無視した評価は危険
人材開発には、次のプロセスが存在します。
知る
↓
理解する
↓
やってみる
↓
上手にできる
↓
効果が出る
↓
結果に結びつく
多くの企業はこのステップを理解しないまま「成果が出ていない」と判断します。
たとえば、営業スキルを学んだからといって、翌月いきなり売上が2倍になるわけではありません。
コーチング研修に参加しても、翌週のエンゲージメントスコアが急上昇するはずもありません。
「学んだ=成果が出る」という直結思考は、あまりに乱暴です。
結果だけを見て効果を判断すると、誤った意思決定を招く
研修後すぐに結果が見えないと、
「無駄だった」
「次から研修は減らそう」
「もっと即効性のあるものに切り替えよう」
といった短絡的な判断が行われがちです。
しかしこれは、組織の将来にとって大きな損失です。
とくにマネジメントやリーダーシップは、「人を介して成果を出す」領域。
定着から成果の反映までの時間は、どうしても長くなります。
それを理解せずに短期指標のみで判断するのは、投資の本質を見誤っています。
担当者が効果測定を誤る背景には、経営層の「短期圧力」がある
研修担当者が誤った評価をしてしまう理由のひとつは、経営層からの「結果を見せてほしい」というプレッシャーです。
ただ、それが行き過ぎると次のような悪循環が起こります。
応用型研修が敬遠される
↓
短期で数字に出るテーマだけを選び始める
↓
マネージャー層の能力が弱いまま固定化する
↓
組織の中長期的な成長力が失われる
これは、企業にとって最も避けるべき状態です。
本来見るべきは「変化の道筋」
研修は魔法ではありません。
研修を受けた瞬間に人が別人のように変わることもありません。
見るべきなのは、次のような「変化のプロセス」です。
- 行動が変わり始めているか
- 思考の質が変わっているか
- チームとの関係性が良くなっているか
- 小さな成果が積み上がっているか
- それが再現できる状態になっているか
「果報は寝て待て」というだけでは不十分ですが、 「変化には時間がかかる」という事実を前提に、プロセスを追うことが必要です。
では、どこまで待つべきなのか?―判断の基準
「時間がかかる」ことは理解できても、無制限に待つわけにはいきません。
では、どのように見極めればよいのでしょうか。
効果が表れているかを判断する3つのポイント:
【1. 行動変容の兆し】
研修後3〜6ヶ月以内に、受講者の行動に何らかの変化が見られるか。
たとえば、部下との対話の頻度が増えた、会議での発言の質が変わった、といった小さな変化です。
Leader Behavior Indexなどを使って測定が可能です。
【2. 定性的なフィードバック】
本人だけでなく、周囲(上司・同僚・部下)から「何か変わった」という声が上がっているか。
変化は本人が気づく前に、周囲が先に感じることも少なくありません。
簡易版360度評価や、簡易アンケートなどで変化を測ることが可能です。
【3. 小さな成果の積み上がり】
6ヶ月〜1年の時点で、部分的な成果(チームの雰囲気改善、離職の抑制、プロジェクトの円滑化など)が見え始めているか。
エドモンドソンの心理的安全性スコアやエンゲージメントスコアにより測定可能です。
これらの変化が見られない場合は、研修設計そのものを見直す必要があります。
時間をかければすべてが成功するわけではありません。
重要なのは「正しいプロセスを経ているか」を確認しながら、適切なタイミングで軌道修正することです。
研修投資の本質は「即効性」ではなく「再現性」
最終的に重要なのは、短期的な成果の有無ではありません。
その研修が、
現場の行動を変え、
↓
習慣となり、
↓
チームに連鎖し、
↓
組織の成果として積み上がるか。
つまり、「再現性のある変化」を生み出すかどうかです。
人と組織を育てることは、事業成長と同じく長期戦です。
経営層や管理職こそ、教育投資を「未来の収益への必要投資」として捉える視点が求められます。
明日から始める3つのステップ
【経営層の方へ】
次回の人事報告では、「数字」だけでなく「変化のプロセス」を報告させてください。
- 研修後の行動変化(具体的なエピソード)
- 定性的なフィードバック(周囲の声)
- 小さな成果事例(チーム単位での変化)
この3点を聞くことで、研修の真の効果が見えてきます。
【人事・研修担当者の方へ】
過去1年間の研修を「即効型」「応用型」に分類し、それぞれに適した評価期間を設定してください。
- 即効型:3〜6ヶ月での評価
- 応用型:最低6ヶ月、できれば1年のモニタリング期間を確保
また、評価指標も「結果」だけでなく「行動変化」「定性フィードバック」を含めた複合的なものにしましょう。
【管理職の方へ】
部下が研修を受けた後、1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月のタイミングで、 「研修後、何か変化したことはある?」と対話の中で聞いてみてください。
小さな変化を言語化することが、定着への第一歩です。
そして、その変化を認め、フィードバックすることで、新しい行動が習慣化されていきます。
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