ワンコのお散歩をしていた時のことです。
公園の裏手は緩やかな坂道になっていて、私たちはその上り坂に差し掛かろうとした時、スケーターに乗った小学1-2年生くらいの男の子が物凄い勢いで坂を滑り降りてきて、「危ない!」と思ったその瞬間、身体は宙に浮き、道路に投げ出されてしまいました。
スケーターは反対側に転がり、男の子は動きません。
「大丈夫? 僕、大丈夫?」
叫びながら男の子に駆け寄ると、身体を起こそうとするものの痛みが強いのか、「痛いよ。痛いよ。」とその子は泣き始めました。
最初はショックで口もきけなかったようですが、少し落ち着いてきて、痛みが襲ってきたのでしょう。
見ていた限り、頭は打っていなかったと思うのですが、半身を強打したように見えました。
「どこが痛い?」と聞くと、左ひざを押さえて泣きじゃくっています。
少し赤くなって血は出ていますが腫れはなく、他に目に見える外傷はありませんでした。
「お膝曲げられる?ゆっくりね。そうそう。伸ばせる? 痛くないかな? じゃあ、ゆっくりと立ち上がってみようか。」
どうやら骨が折れている様子はなかったので、男の子を立ち上がらせ、スケーターを手元に引き寄せました。
「お名前は? りん君。そう。もう大丈夫かな? お家はここから近いの?」
ようやく少し泣き止んだりん君。
「お友達の家に忘れ物を届けに行くの。」
と言うと、あっという間に走って行ってしまいました。
一緒にいたワンママ友が呟きました。
「全く最近の子は、『ありがとう』が言えないのかしら!」
思わず苦笑いです。りん君から「ありがとう」を期待していたわけではないので、「ワンママ友のチェックポイントはそこかぁ」と思ったのです。
「でも驚いたし痛かっただろうに、お友達に早く届けてあげたくてケガしてるのに急いで走っていくのって、スゴイと思いませんか?一生懸命というか、健気というか。」
私が言うと、ワンママ友も、「そうねぇ」と笑っていました。
りん君のミッションは、約束の時間までにお友達の忘れ物をお家に届けることだったのですが、その途中、急ぐあまりに転んでしまった。とても痛かったし驚いたし、本当はお家に駆け帰ってお母さんに甘えたかったかもしれないけれども、とにかくお友達の家に急いだのです。
「これってまるで『走れメロス』だわ。」 私はそう思いました。
大人になった私たちは仕事において、もちろんプライベートにおいても、りん君に恥じないくらいに「約束を守る」「自分のミッションは何があってもやり通す」という確かな強い気持ちをどれくらいしっかりと持っているでしょうか?何かにつけて言い訳を探していないでしょうか?
「気をつけてね。もう、転ばないでね。りん君、バイバイ。」
りん君の背中に声をかけながら、人としてすごくシンプルで、しかし大人になるとなかなか難しいこともある「約束を守る」ということを肝に命じたのでした。