首都圏で大雪となった翌日。大変だったのは雪かき! という方も多いと思います。
しかし、大変なはずの雪かきが自分達チームにとっての素晴らしい時間=クオリティタイムになったとのお知らせを頂きました。
リーダー(以下、L) 明日は大雪予報出てるから、明後日はみんな、少し早めに来て雪かき頑張らないとな。Hくん、雪かき用のシャベル、何本か今日のうちに買ってきておいて。
Hくん(以下、H)あのう・・・
L 君が一番下っ端だし、仕事もそんなに忙しくないはずだけど。都合悪いの?
H いえ、そうではないです。そうではなく、シャベル買う必要ないかと・・・・
L シャベルないと雪かきできないじゃないか!
H シャベル、買ってくるのはいいんですが・・・。僕、雪国の出身なんで・・・
L 知ってるよ。長野のすっごい雪深いところだろ。
H あのぅ・・・・ 僕ら、近所の人間は、雪かきに誰もシャベルを使わないんです。
L じゃあ、何でするんだよ!?
H はい。近所の製作所みたいなところで廃材の横長い板に、細長い棒を釘で打ち付けてもらって、それでするんです。分厚い段ボールみたいなのでもいいですけど。シャベルじゃなくて板なんです。
L 板じゃぁ、雪すくえないだろう!
H はい。雪は救わないんです。雪は救ってどかすんではなく、押し出して脇へ移動させるんです。そうしないと長時間の雪かきは疲れてできません。雪下ろしの時は別ですが、道路の雪かきは板なんです。
L なんだかよくわかんないけど、普段おとなしいHくんがそこまで言うんだったら、道具の用意から明後日の段取りまで、全部、任せるから。その変わり、ちゃんとやってよ。明後日、開店までに雪かきできていなかったらお客さんに迷惑かけるし、シャレになんないからね!頼むよ!!
H はい! 分かりました!
そして大雪の翌朝。
Hくんはどこで探してきたのか、商店街で使わなくなったプラカードのようなモノの持ち手にタオルを巻きつけたモノを数本、古くなった掃除用デッキブラシの先に大きな塵取りのようなものを打ち付けたものを数本用意し、満面の笑顔でチームのみんなを待っていました。
最初に道具を使って自らが見本を見せ、みんなもそれに習って雪かきならぬ雪押しをします。
普段は仕事の成績もパッとせず、口数も少ないHくん。チームで一番年下という事もあり、自分から他のメンバーに話しかけることをしませんし、メンバーたちも、いえ、リーダーさえもHくんの事を少しバカにしていたようなところがありました。
ところが雪かき現場でのHくんは、まさに現場のリーダー。
額に汗しながらニコニコと大きな声で皆に話しかけ、丁寧にコツを教えてあげています。何より、そんなHくんが一番身体を動かして働いている。
みんなも、「おい、H。これでいいの?」「おまえ、この道具、どうしたの? すごいな!」「なんか、普段と別人じゃん!」などと話しかけます。
始業前の雪かきタイムはHくんを中心としたクオリティタイムに早変わり。
皆の頑張りとHくんの前日の準備のかいあって、あっという間にお店の前は綺麗になりました。
あんなにイキイキとしたHは見たことがない。仕事もあれくらい前向きに頑張ってくれるといいんだけど。
リーダーはそう思いました。
昼休み。
L Hくん。今日はどうもありがとう。お陰で助かったよ。ご苦労さん。
H いえ、こちらこそ、ありがとうございました。リーダーが任せると言ってくれたので、頑張らないとと思って。嬉しかったです。
L え?
H 「シャベルじゃなくて板だ、だなんて、そんなこと都会の人に言うなんて、お前バカじゃないの」と長野の友達に後で言われました。けど、リーダーは僕にすべて任せると、あの時言ってくれて、すっごい嬉しかったんです。普段、仕事で全然役に立ってないし、せめて雪かきの時くらい、僕でも役に立てるんじゃないかと思って。皆さんも、一生懸命やってくれたし。僕でもチームの皆さんに役に立てたの、このチームに入って初めてなんです。だから、すごく嬉しくって。リーダーのお陰です。本当にありがとうございました。
Hくんの話を聞いて、リーダーはこれまでの自分を恥ずかしくなると同時に、こんな風に思ったそうです。
確かにHくんは仕事の上で、器用なタイプではないし物覚えも良い方ではない。それが何かとイラッときて、重箱の隅をつつくような指摘をしている自分がいる。
彼がのびのびと仕事をできていないのは、そうやって小姑のように口うるさく言う自分のせいかもしれない。
彼を縮こまらせてしまっているのはきっと自分だったんだ。
信じて任せれば、今日だってこんなに頑張ってくれた。
チームのために頑張りたい。役に立ちたい。そういう気持ちを彼は人一倍ちゃんと持っている。
もっと大らかな心で彼の普段を見ていてあげなければいけないんだ。
リーダーからこのお話を聞いて、私はリーダーに一つ質問をしてみました。
「どうしてHくんにすべて任せようと思ったの? 不安じゃなかったの?」
するとリーダーは少し考えこんでからポツリポツリと言いました。
「本当は、少し意地悪なあ気持ちがありました。『そこまで言うなら、やってみろよ!』みたいな。どうして任せたかというと・・・。
普段、自分からあまり物言わないやつなのに、あの時はボソボソとだけど、自分の意見を言ったから・・・。
最初は『何こいつ!?』と思ったけど、『そうだ。聴かなきゃ。普段、喋らないやつが喋ってる。』と思って。
あぁ、でも、本当に、別人のような表情で雪かきしてたんです。みんなもHのこと、ちょっと見直したって。あいつの良さを自分たちが閉じ込めてしまっていたんだって、何人かで話したんです。」
クオリティタイムをしっかりと取ることで、お互いの良いところが分かり、よりチームとしての結束が固まる。信頼関係が深まる。チームとしての絆が出来上がっていく。
きっかけはリーダーの投げやりな「任せる!」だったかもしれませんが、結果として、雪かきのクオリティタイムがこのチームに大きな変化のきっかけをもたらしたようです。
聴く。信じる。任せる。 リーダーにとって大切ですね。
そして、自分たちにとっての質の高い時間クオリティタイム を持つという事。これも、より良いチーム作りには欠かせない事なのだと思います。